文/紫貴あき
7th glass of wine
「能登初桜+天狗舞」
石川県の形は、手を横から見た図に似ています。まるで助け合うために、手を伸ばしているような形ー 今、石川の日本酒業界では、手を取り合って復興活動が行われています。
2023年5月地震から能登半島地震
櫻田酒造は、石川県珠洲市に位置する酒蔵です。100年以上も続く酒蔵で、地元の漁師たちに愛されてきました。社長の櫻田博克さんは4代目です。
2023年5月に起きた地震で、土壁が崩れ落ち、数百万かけて修復していました。修復が終わり、酒造りに取りかかった矢先に、元旦の地震が発生したのです。蔵、店舗、住宅は一瞬で全壊。杉玉のついた屋根は潰れ落ち、タンク、すべての醸造施設も瓦礫に埋もれてしまいました。櫻田さんは、一時は廃業を考えたとか。そんな櫻田さんを支えたのが、ファンの応援の声、そして同業者の支援なのです。
能登の大慶.能登初桜醸造元 櫻田酒造、蔵元杜氏の櫻田博克さん
櫻田酒造を救え!
すぐに櫻田さんに手を差し伸べたのが、白山市の車多酒造です。白山市は石川県の南方に位置するため、震源地に近い能登ほどは地震の被害は大きくなかったとか。そうはいっても、車多酒造でも、壁が落ちたり、ひびが入ったり………7人いる蔵人のうち4名は実家が全壊・半壊し、住めない状態になり、減産せざる負えない状況にあります。そのような状況でも、「うちの被害なんて微々たるものです」とは、社長の車多一成さん。櫻田さんとは、20代からの親友です。
車多酒造の応援プログラム
1つ目の応援は、共同醸造。被害に遭わなかった米を、車多酒造に持ち込んで、櫻田酒造の酒として仕込みます。能登四天王として知られる杜氏の中三郎さんも、アドバイスします。「能登大慶」純米酒として販売されます。
そしてもう1つは、櫻田酒造と車多酒造の酒をブレンドした酒です。全壊した蔵の中でも奇跡的に生き残った酒。これを天狗舞の本醸造とブレンドして「能登初桜+天狗舞」として販売します。櫻田さん自身が自分の酒に近いと思ったスタイルに仕上げました。このお酒の利益は、櫻田酒造の復興に全て割り当てられます。
広がる支援
車多酒造が支援したのは、櫻田酒造だけではありません。鳳珠郡に位置する数馬酒造です。地震が発生したとき、数馬酒造では、まさに仕込み最中でした。醪(もろみ)のままでは瓶詰めすることはできません。そこで、2回に分けて醪を取りに行き、車多酒造で醪を搾り、瓶詰め、出荷まで行ったのです。「人様の子どもを預かったみたいで、ホッとしました」とは車多社長の言葉。
手を取り合って
「能登は石川の酒にとって重要な場所」「昔から、みんなで切磋琢磨してきたのだから、支援は当たり前」と車多社長は語ります。深い失望を感じるときも、手を取り合いながら前進する石川の酒。全快の笑顔で乾杯できる日を夢見て、一歩ずつ復興の道を歩んでいます。わたしたちも、今こそ飲んで応援したいものです。
記事のお酒が買えるサイト
車多酒造オンラインショップ (tengumai.jp)
※品切れになる場合もあります