文/紫貴あき
8th glass of wine
「クアルティチェッロ・レモーレ」
天才レオナルド・ダ・ヴィンチ―そのダ・ヴィンチがブドウ畑を所有していたことはあまり知られていません。天才が愛したワイン。いったいどんな味わいだったのでしょう。
天才も飲んだワイン
ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会に保存されている『最後の晩餐』は、ダ・ヴィンチが描いたことで有名です。遅筆ともして知られるダ・ヴィンチ。いったいどんな気持ちで描いたのでしょう。
使徒たちの並び順、ポーズ、表情…なかでもイエス・キリストの顔を描くのに何週間も悩んだとか。これには『福音書(新約聖書)』の深い理解と想像力が必要です。壁に描くとなれば肉体的にも負担がかかったことでしょう。そんなダ・ヴィンチの心身を癒してくれたのが、ワインだったのです。
『最後の晩餐』の褒美にブドウ畑
絵のかかる教会から歩いて5分の場所にある約1ヘクタールの「レオナルド・ヴィンヤード」は、この絵を描いた褒美に贈られたものです。きっとワイン好きのダ・ヴィンチは畑の畝と畝の間を歩き、土の香りや、ブドウの成長を楽しんでいたのかもしれません。死期が迫る手紙の中でも、この畑のことに触れているのですから、その愛着ぶりをうかがい知ることができます。
それから約500年。レオナルド・ヴィンヤードはすっかり忘れ去られていました。それもそのはず、第二次世界大戦中(1943年)の襲撃で、ミラノは焼け野原になり、このとき教会も畑も瓦礫と灰に埋もれてしまったのですから。
レオナルド・ヴィンヤードを探せ!
21世紀に入り、レオナルド・ヴィンヤードの復興プロジェクトがスタートしたのです。まずはダ・ヴィンチの畑がどこにあったのか。その調査だけでも11年の歳月がかかりました。ようやく見つかった畑を掘り起こし、ブドウの木の根を探そうと試みますが、これも重労働。掘っても、掘っても根は見つからず、ようやく見つかったブドウ樹の根は、枯れてしまっていました。
サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会:1943年アメリカ軍からの空爆を受けた後。『最後の晩餐』は奇跡的に残ったが、近くのレオナルド・ヴィンヤードは瓦礫に埋もれてしまった。
ついに明かされたブドウ品種
枯れたブドウの根はDNA鑑定にかけられます。どんなブドウ品種が植えられていたのか、世界中が注目しました。そのところ、白ブドウのマルヴァジーア・ディ・カンディア・アロマティカであることが判明したのです。
マルヴァジーア・ディ・カンディア・アロマティカは、ミラノから南東方向に位置するエミリア・ロマーニャ州のピアチェンツァ地区で、現在も栽培される品種です。この地区から挿し木を分けてもらい、2015年に植樹されたブドウは、2018年にようやく収穫されたのです。
15世紀のつくり方を再現
ワインづくりは、同品種で実績のあるカステッロ・ディ・ルッツァーノというつくり手に委ねられました。そのプロセスは15世紀を再現。白ブドウ品種であるにも関わらず、テラコッタという素焼きの陶器で果皮ごと醸します。現代風にいうならば、いわゆるオレンジワインをつくる工程といえるでしょう。
ようやくワインとして世にお披露目されたのは2019年のこと。その本数わずか330本、ワイン名は「ヴィーニャ・ディ・ミラノ」です。天才レオナルド・ダ・ヴィンチが愛したワインとなれば垂涎もので、すべてオークションで販売されました。
天才ワインの片鱗が味わえる⁉クアルティチェッロ・レモーレ
残念ながらレオナルド・ダ・ヴィンチのワインを飲むのは簡単ではないようです。そこでオススメしたいのが、同じ品種からつくられるオレンジワイン「クアルティチェッロ・レモーレ」。品種名どおり、白い花、アプリコット、レモンの果皮のようなアロマティックさが特徴です。
天才といわれながらも、悩みもがいて、『最後の晩餐』を完成させたダ・ヴィンチ。きっと自分の畑からつくられたワインを口にして、心から満足していたことでしょう。そして、時を経て、同じ品種からつくられたワインをわたしたちも飲むことができるとは、きっと心震える体験になるはずです。
※レオナルド・ヴィンヤード:現在は一時閉鎖中です。
HPはこちら。https://www.vignadileonardo.com/en
クアルティチェッロ・レモーレ
生産国/イタリア
品種/マルヴァジーア・ディ・カンディア・アロマティカ
輸入元/トレジャーフロームネイチャー
参考価格/3,860円