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WINE

紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし 無人島にワインを1本だけ持っていくなら、あなたはなにを……

文/紫貴あき
12th glass of wine
「WHISPERING ANGEL (ウィスパリング・エンジェル)

無人島にワインを1本だけ持っていくなら………、シャンパン?ブルゴーニュのグラン・クリュ?なんとも悩ましい選択です。ところが、アカデミー・デュ・ヴァン創始者のスティーヴン・スパリュアは、きっぱりと「ロゼだ」と答えたのです。

多彩なロゼワインの世界

ロゼほど多様性に富んだワインはないのに、なぜかそのバラエティーについて語られないのは不思議です。色の淡いロゼから、濃いロゼ。オレンジがかったロゼから、青みを帯びたロゼ。軽くてすっきりとしたロゼから、フルボディでリッチなタイプ………などなど。

フランスはロゼの魅力を世界に発信しつづけるリーダー的な存在といってもいいでしょう。実際、数年前から、ロゼワインの消費が増え、白ワインの消費を抜いるのですから。そして、そのフランスでは、ロゼワインを2つの言葉で呼びわけているのです。


ヴァン・ド・ソワフ vs ヴァン・ド・ガストロノミー

その名も「Vin de soifヴァン・ド・ソワフ」と「Vin de Gastronomieヴァン・ド・ガストロノミー」。フランス語の「soif」は「喉が渇いた」の意味で、その名の通り、喉元をすっと通り過ぎて癒してくれるような、軽やかで夏にぴったりなロゼのことです。これらのワインは、色が非常に淡いのが特徴です。

一方「Gasronomie」は「美食」の意味。やや色が濃く、リッチでしっかりとした飲みごたえのあるロゼワインを指します。白でもない、赤ワインでもないロゼは、鳥でもない、動物でもないコウモリヨロシク的な立ち位置で、幅広い料理に合わせられるワインです。

サヨナラ、お手頃サマーワイン⁉

「Vin de Soif(喉の渇きを潤すワイン)」と聞いたら、100人中100人が「財布に優しいワイン」を想像するかもしれません。しかし、これらの軽めロゼは、近年、お手頃サマーワインを卒業して、エレガントで幅広い食事に合う、洗練されたプレミアムロゼへと進化しているのです。 その証に、ブラッド・ピットをはじめ、ジョージ・ルーカス、LVMH、シャネルまでがロゼワイン生産のために、聖地プロヴァンスへ乗り出しているのですから。これらのワインは、いずれもソメイヨシノを思わせるような淡いピンク、柑橘の香りとキリリと引き締まった酸が特徴。レモンをかじったような爽やかな酸が、酸味の効いた料理と同調したり、ときには脂分の多い肉料理の酸を抑制したりする働きをもたらせてくれます。

ロゼワインを特徴づける要素

こういったプレミアムロゼが「好き」と公言する人が増えているにも関わらず、ロゼについてアカデミックに語られる機会は多くないもの。下記にロゼワインの色や味わいを決める重要要素をご紹介しましょう。

①品種による違い
シラーやムールヴェードルのような品種はヴィヴィッドなロゼワインになります。それに対して、ティブランのような品種を使った場合は、サーモンピンクになります。ポイントは酸の高さ。酸が高い品種はよりピンクに、低い品種はサーモン色になる傾向があります。


②手法による違い
黒ブドウを軽く圧搾して果汁を引き抜いた手法(これを「ダイレクトプレス」という)は淡いサクラ色になりやすく、赤ワインをつくる要領で黒ブドウを短期間だけ果汁と接触させた場合(これを「セニエ」と呼ぶ)は、やや濃くなる傾向があります。今、流行りの軽めのワインは、ほとんどが前者の手法でつくられています。

③まだまだある違いを生む要素
温まったブドウを使った場合は、手法を問わずより色が濃くなります。温度を決める代表例は、収穫のタイミング(昼間/夜間収穫のどちらか)といってもいいでしょう。色の淡いロゼをつくるなら夜間収穫が良いのは明らかです。他にも、木樽を使って酸素と接触させるように熟成するとオレンジに。また火山灰性土壌で育てたブドウを使うことでもオレンジっぽくなることも報告されています。

天国のスパリュアも喜んでいる⁉

これのことを考慮してつくられるプロヴァンスのプレミアムロゼは、世界的な評価を得て、ジリジリ価格上昇し続けています。プレミアムが、いつかはスーパープレミアムに。現在は、スパークリングロゼの生産も期待されているとか(現在、プロヴァンス地方ではスパークリングワインのAOCは認可されていない)。きっと天国のスパリュアも、ロゼワインの躍進に喜んでいるに違いありません。


シャトー・デスクラン/ウィスパリング・エンジェル 2022 
CHATEAU DESCLANS WHISPERING ANGEL 2022
淡いサクラ色。フレッシュなラズベリー、レモンの香り。フレッシュな酸がワインにタイトな印象を与えています。フィニッシュには心地よいミネラル感を感じる

品種/グルナッシュ、サンソー、ヴェルメンティーノ
産地/フランス、コート・ド・プロヴァンス
希望小売価格/3,100円(税抜)

輸入元/MHDモエ ヘネシー ディアジオ

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紫貴あき

ソムリエ | ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。 丁寧なレッスンは、 初心者から上級者まで わかりやすいと評判。 著書に『ゼロからスタート!紫貴あきのソムリエ 試験』( KADOKAWA)。この夏には、かんき社から『ワイン図鑑』を出版予定。

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