文/紫貴あき
16 the glass of wine
「ふなおワイナリー:マスカット・オブ・アレキサンドリア フリーラン【極甘口】」
グラスからふわりと立ちのぼる甘美で華やかな香り――。世界中のワイン愛好家を魅了してきたマスカット・オブ・アレキサンドリア。この由緒あるブドウ品種が、いま岡山の地で新たな輝きを放っています。
国内生産のほぼ100%を誇る岡山。その中心的存在「ふなおワイナリー」は、マスカット・オブ・アレキサンドリアの伝統を受け継ぎ、この地ならではのワインづくりで未来へつなぐ役割を担っています。
今回は、ワイナリーの代表取締役・岩瀬吉晴さんと支配人・城後哲也さんから、地域に根ざした取り組みや、この土地に込めた特別な想いについてお話を伺いました。
ふなおワイナリー
マスカット・オブ・アレキサンドリア一大産地、岡山県倉敷市船穂町
「岡山県は、マスカット・オブ・アレキサンドリアの国内生産をほぼ独占しています。倉敷市船穂町で初めてこの品種の栽培に成功してから約70年、日本一の産地としてその名を知られるようになりました」と語るのは、ふなおワイナリーの支配人・城後さん。
2004年、高齢化が進む農業の課題に応えるべく、第三セクターとして誕生したこのワイナリー。城後さんはその原点をこう語ります。「歴史あるこの品種を守り抜き、地域の未来を担う新たな産業として育てていきたい。それが私たちの挑戦の出発点です」
岡山の恵みが育む、マスカットの真髄
穏やかな気候に恵まれた「晴れの国」岡山。この地は、台風の影響を受けにくく、年間降雨量約1,000mm、平均気温15.1℃という安定した環境が広がります。マスカット・オブ・アレキサンドリアが最高の品質を発揮するには、こうした穏やかで水分ストレスの少ない条件が欠かせません。
特に注目すべきは、高梁(たかはし)川流域の畑。その豊かな水流が、ブドウの安定した成長を支えています。「一度、水分を減らして育てたところ、結実しなかったと聞いています」と岩瀬さん。絶妙な水供給が、この品種の成功のカギを握っているのです。 さらに、ふなおワイナリーは品質へのこだわりを徹底しています。「生食用と同じように丁寧に間引きを行いながら、最高の実を追求しています。」この緻密な管理が、ふなおワイナリー独自のピュアな味わいを生み出しているのです。
マスカットの香りを引き出す醸造への挑戦
ふなおワイナリーでは、この品種特有のマスカット風味を最大限に引き出すため、さまざまな醸造技術を駆使しています。
・スキンコンタクトや醸し発酵を取り入れ、果皮と果肉の間にある香り成分を引き出す。
・特別な酵母を使用し、発酵中に逃げやすい芳香成分を最大限に保存する。
・極甘口ワインでは、フリーラン果汁(ブドウ果皮を破ったときに自重のみで落ちてくる果汁のこと)のみを贅沢に使用。
「まるで生のマスカット・オブ・アレキサンドリアをそのまま食べているかのような味わいを追求しています」と岩瀬さん。さらに、香りの豊かさを最大限に活かしながらも、和食との相性を考慮したワインづくりを進め、輸出も視野に入れています。ふなおワイナリーのワインは、マスカットの魅力を世界に伝える架け橋となることでしょう。
ワインが紡ぐ地域の絆と未来
地元の飲食店と連携し、地域活性化にも積極的に取り組んでいます。たとえば、地元のスイーツ店とコラボレーションを展開しています。とくに甘口のスタイルは、芳醇な果実味がフルーツ感溢れるモモのコンポートと見事に調和します。甘味と塩味の絶妙な相乗効果を活かし、ゴルゴンゾーラのチーズケーキとのペアリングも至高のマリアージュを実現しています。これらの取り組みを通じて、地域の魅力を再発見し、共に高め合うことを目指しています。
新たなワインの物語
──今後、どのようなチャレンジをお考えですか?
「この地を象徴するマスカット・オブ・アレキサンドリアを使った白ワインに加え、赤ワインの醸造にも本格的に挑戦しています。中でも注目しているのが、高梁川流域に自生するシラガブドウとマスカット・オブ・アレキサンドリアを掛け合わせて生まれたマスカットシラガイという黒ブドウ品種です。この品種の栽培を始めたばかりですが、実際にワインとして完成するまでにはあと3年ほどかかる見込みです。それでも、そのポテンシャルには大きな期待を寄せています。」と城後さん。
マスカットシラガイという黒ブドウ品種
この挑戦の先にあるのは、地元の恵みを丁寧に見つめ、ワインという形で魅力を届けること。「土地の個性を活かしたワインで、船穂町の可能性を世界に届けたい」という思いには、未来への希望が込められています。
マスカット・オブ・アレキサンドリア フリーラン【極甘口】
品種/マスカット・オブ・アレキサンドリア100%
参考価格/4,560円(税込)
Late Harvestスタイル
モモのコンポート、洋ナシタルトなど甘美な香りが鼻腔をくすぐります。あとに続く、白バラやムスクの印象も優雅で◎。口に含むと、しっかりとした甘さと滑らかな舌触りが優美な印象が感じられるでしょう。ゆったりとした雰囲気を味わいときにぴったりな1本です。
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