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WINE

「シャンパンのきらめきとイチゴの甘美さ」は「ロマンティックの象徴」。

文/紫貴あき

紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし 18 the glass of wine

「It brings out the flavor.(風味を引き立てるのさ。)」

映画『プリティ・ウーマン』(1990年)のワンシーン。リチャード・ギア演じるエドワードが、ジュリア・ロバーツ演じるヴィヴィアンにイチゴとシャンパンを差し出しながら静かに告げるこの台詞は、あまりにも印象的です。

シャンパンのきらめきと、イチゴの甘美さ。その出会いが、なぜこれほどまでに「ロマンティックの象徴」として語り継がれているのでしょうか。

王侯貴族が愛した果実──フランス人にとってのイチゴ

フランス人にとって、イチゴは贅沢の象徴です。中世の貴族や王族が愛し、ルイ14世は庭園で育て、マリー・アントワネットは生クリームを添えて、ナポレオンはカリンのジャムとともに楽しんだといわれます。

18世紀後半には、イチゴにシャンパンを合わせる習慣も生まれました。泡立つ黄金の液体とみずみずしい紅の果実。その洗練された組み合わせは、もしかするとマリー・アントワネットやナポレオンの杯にも注がれていたかもしれません。 何より、イチゴの鮮やかな赤は「愛」や「情熱」の象徴。春の訪れとともに市場に並ぶその姿は、冬の終わりを告げる喜びの果実でもあります。フランス人がイチゴに特別な思いを寄せるのも、納得のいく話ではないでしょうか。

祝いの酒シャンパンになったのはなぜ

シャンパンは、古くから「祝祭の象徴」とされてきました。その起源を辿れば、5世紀にまで遡ります。フランク王国のクローヴィス1世がシャンパーニュ地方の教会で洗礼を受けた際、そして後にランス大聖堂で27人の王が戴冠式を行った際にも、この地のワインが振る舞われました。ただし、17世紀までは赤ワインでしたが──。

こうしてシャンパーニュのワインは、時を経て「祝いの酒」としての地位を確立していきました。そして、その華やかさがイチゴと出会うとき、歴史的な特別感が生まれるのです。 さらに、シャンパンの繊細な泡がイチゴの甘みと酸を包み込み、余韻に優美さをもたらしてくれる。その出会いは、単なる相性の良さを超え、視覚でも、味覚でも、特別な体験をもたらしてくれるのです。

シャンパン選びのポイント

イチゴとシャンパンの優美な出会いを楽しむなら、ラベルに「ドゥミ・セック」と表記されたやや甘口のシャンパンを選ぶのがおすすめです。甘いものと辛口のワインは意外と相性が難しいものです(「チョコレートとワインのペアリング」の記事でも紹介)。やや甘口のシャンパンなら、イチゴの繊細な甘みをやさしく引き立ててくれるでしょう。例えば、「ヴーヴ・クリコ ドゥミ・セック」などは、気軽に楽しめる一本です。

ヴーヴ・クリコ ドゥミ・セック:熟した白桃やハチミツ、
ブリオッシュの香りが広がるやや甘口のシャンパーニュ。
クリーミーな口当たりと甘美な果実味に、酸とミネラルがバランスよく調和。

もちろん、「ブリュット」と表記された辛口のシャンパンも選択肢としては悪くありません。シャンパンの繊細な泡がイチゴの甘みと酸味を包み込み、爽やかな調和を生み出します。ただし、イチゴの種類によっては酸味がぶつかり合うこともあるため、より安心して楽しむなら甘みのあるシャンパンを選ぶのが無難でしょう。

イチゴとシャンパンの美しき演出

イチゴとシャンパンの魅力は、その味わいだけでなく、視覚的な美しさにもあります。たとえば、グラスの縁にイチゴをそっと飾るだけで、食卓に洗練された華やかさが生まれます。あるいは、薄くスライスしたイチゴをグラスに浮かべれば、まるで映画のワンシーンのようです。  特別な夜を演出したいなら、キャンドルの灯りのもとで楽しんでみてはいかがでしょうか。シャンパンの泡が揺らめく光を映し、イチゴの赤がより深みを帯びる。それだけで、何気ない夜が特別なひとときへと変わるのです。

日常に魔法をかける

フランス人が愛してやまないイチゴの甘美さと、シャンパンがもたらす高揚感。そのふたつが出会えば、小さな非日常が手軽に体験できます。そればかりか、まるで映画『プリティ・ウーマン』のワンシーンのように、それはさりげなくロマンチックな余韻を残してくれるでしょう。

次の特別な夜には、イチゴとシャンパンを手に取ってみてください。その一杯が、あなたの日常にひとさじの魔法をそっとふりかけてくれるはずです。

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紫貴あき

ソムリエ | ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。 丁寧なレッスンは、 初心者から上級者まで わかりやすいと評判。 著書に『ゼロからスタート!紫貴あきのソムリエ 試験』( KADOKAWA)。この夏には、かんき社から『ワイン図鑑』を出版予定。

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