お酒を自由に楽しみ、セレンディピティな出会いを

WINE

アルザスとコート・デュ・ローヌのワインの沼にハマる!

フランスのワイン産地といえば、多くの読者は「ブルゴーニュ」「ボルドー」と即座に頭に浮かぶだろう。だが、知る人ぞ知る、そしてコストパフォーマンスに優れた産地といえば?いわゆる「クワイエット・ラグジュアリー」として支持されているのが、いぶし銀の魅惑を放つ「アルザス」と「コート・デュ・ローヌ」だ。
ワインを楽しむのにドヤッと見せびらかしたり、自慢したりすることって、じつはナンセンス。シンプルで、上質で、自分の心が喜ぶ美味しさがあればいい。控えめながら存在感があり、飲むと贅沢な気持ちになる、そんなワインを探している人にオススメしたいのが、「アルザス」と「コート・デュ・ローヌ」。その静かなる魅力を、食とのリンクから皆さんに提案してみたい。ズバリ技あり!な「おうちバル×アルザスワイン」「おうち中華×ローヌワイン」の簡単ペアリングを知って、ワインの沼にハマっちゃってください。

「アルザス」編 ひと目で分かる産地とブドウ品種に感涙

アルザス地方コルマールは「アルザスワイン街道の首都」と呼ばれ、ワイン・ツーリズムの起点となる街。

旅慣れていない日本人からすると、フランスのどの地方の風景を見ても「フランスだなあ」と感動するが、多くのフランス人にとってアルザス地方は「異国情緒あるエキゾチックな場所」だ。隣国ドイツの文化を色濃く残すアルザスは、ワインもまたユニーク。瓶はフルートと呼ばれる華奢で細長いかたちをし、リースリングをはじめとするドイツ系のブドウ品種が盛んに使われる。
うれしいのは、ブドウ品種の名前がラベルに記載されていること。今でこそ南仏を中心に品種名記載のワインは増えたが、フランスワインの主流は「産地さえ分かれば、自ずと品種は絞られるもの。さあさあ皆さん丸暗記しておきましょうね」という暗黙のルールで成り立っている。けれど、アルザスワインだけは昔から優しかった。ブドウ品種をラベルに記すドイツの流儀を伝統とし、ワインショップでオロオロするビギナーをそっと救ってきたのだった。

アルザスといえば辛口の白ワインが有名で、なかでもリースリング、ピノ・グリ、ミュスカ、ゲヴュルツトラミネールが「高貴品種」と呼ばれている。とはいえ、いろんな食事と合わせやすいタイプばかりだ。高貴ながらも親しみやすいなんて、あら、やんごとなきアナタにピッタリ♡

「おうちバル×アルザスワイン」

おうちバルにアルザスワインが似合う理由
さて、もうひとつうれしいポイントが、「低アルコール」。ほかの産地より涼しいエリアのブドウは、アルコール分解のもととなる糖分が少なめなので、最終的にアルコール度数も低めに……という理屈で、比較的涼しいアルザス(夏の時期だけはすごーく暑いけれど……)ではアルコール度数10度以下のワインが簡単に入手できる。低アルコールならスルっと飲めるかと思いきや、味わいのバランスはきちんと計算されているから、満足感があるのも素晴らしい。
そこで、おうちご飯に少し気合を入れてバル風メニューを用意した際、ぜひ合わせたいのがアルザスワインなのである。バルたるもの、あれこれツマミを用意して長い時間を楽しむべし。となると、飲み飽きせず、しかし低アルコールで飲み応えもあるアルザスワインこそがベストなチョイス!
辛口白ワインがよく知られながら、冷涼な産地のピノ・ノワールに注目が集まる昨今、アルザス産のピノ赤が人気急上昇中。また、シャンパーニュの製法として有名なトラディショナル方式法で造られるクレマン・ダルザスは、通向けのスパークリングとして根強い支持を受けている。

午後の早い時間から、クレマン・ダルザスと軽いスナックでアペリティフをスタート。ほどよく小腹が空いたところで、タコのガリシア風といったタパス(小皿料理)に辛口白ワインを合わせてノンビリ。そして最後は、メインの肉料理と赤ワインで夜更けまで。やっぱり休日は、こうでなくっちゃ。

猛者が選ぶワインもまたアルザスなり
「ラベルに品種名が書いてあるからビギナーに優しい」と言ったその舌の根も乾かぬうちに恐縮ながら、かなりのワインを飲んできた猛者のチョイスもまた、アルザスなのだ。
初めて訪ねるレストランで、「まずはグラスでスパークリングを。どんなの、あります?」とジャブ代わりに尋ねたとしよう。スタッフから「本日、ちょうどクレマン・ダルザスが開いてます」なんて返事をもらえたら、「ぜひ、いただきますぅ(お、渋いセレクションで来たな。上品な泡を置いてるなら、料理も上品に違いない。期待できそうな店だ)」「はい、すぐお持ちしますね(クレマン・ダルザスの価値を即座に理解するお客さんだから、ワイン経験値は高いはず。ほかのワインも、面白そうなラインで薦めていこう)」と、お互い心の声が雄弁になる。

アルザス生産者委員会の教育責任者、ティエリー・フリッチさん

9月に来日したアルザス生産者委員会代表、ティエリー・フリッチさんのオススメ料理は「ブランケット・ド・ヴォー」なのだとか。仔牛肉をクリーム煮にした伝統料理で、手間暇かけて作られるもの。アルザスワインのなかでも上級クラス、グラン・クリュのワインを合わせたい。数年寝かせて熟成感を増したタイプなら、まさにドンピシャ。
また、アルザス生産者委員会の教育責任者ティエリー・フリッチさんがよりアルザスの魅力を深掘りできる「テロワール」についてインタビューに答えてくれた下記の記事もぜひ一読を。

何が起こってるか、「アルザスの今」を知りたい方はココをタップ
先入観にとらわれず、今のアルザス&コート・デュ・ローヌのワインの魅力を探る!

「コート・デュ・ローヌ」編 赤ワインだけでは語れなくなった多様なテロワール

フランスの南東部に、ローヌ川沿いに南北250㎞ほどに亘って広がるワイン産地。生産の8割ほどが赤ワインで、AOCワインの生産量はボルドーに次いで2位。産地を代表するワインとしては、コート・ロティ、コンドリュー、シャトーヌフ・デュ・パプなどが挙げられる。なので、コート・デュ・ローヌといえば「赤ワイン」というイメージが定着はしている……。
しかし、今、大きな変化は起こっていて個性豊かな「白ワイン」が続々と誕生している。

コート・デュ・ローヌの首都アヴィニョンにあるクロ・デュ・パレ・デ・パプのブドウ畑

スパイス感でリンクする赤、包み込む白でコート・デュ・ローヌのワインを楽しむ
赤ワイン用のローヌ系品種、代表的なのはシラーとグルナッシュである。シラーは胡椒を思わせるスパイシーさがあり、スパイスの効いた中華料理やアジア料理と相性がいい。いっぽうグルナッシュは果実味豊かで、料理のスパイス感をマイルドにしてくれる。ところで白ワインだって、これまたツワモノ揃い。温暖な地でよく熟したブドウからコクのあるリッチな味わいの白が産まれ、ニンニクの香る炒め物でも丸ごとやさしく包んでくれる。そして忘れちゃいけないのが、ロゼ。白よりロゼをたくさん飲んでいるフランスにおいて、ローヌのロゼは「淡い白ワインタイプから濃厚な赤寄りタイプまで、いろいろ選べる」「そしてどれもコスパ良」と重宝されているのだ。

ニンニクの香りが強い料理の場合、合わせるワインは限定される。「ワインの甘い果実味で隠す」「強い酸で流す」といった手もあるが、料理もワインも味わいたい人には「オイリーさで包む」ローヌ白がオススメ。誤解を恐れずに言えば、「酸いも甘いも噛みしめたアンミカさん的な、動じない笑顔でゆっくり飲み込まれる」感覚……。

「おうち中華×ローヌワイン」

日式中華はおうちの宴に欠かせない

家でワインを飲むとき、合わせる料理のジャンルは何系が多い? 「好きな料理と好きなワイン」が家飲みの基本原則。総菜を買ってくるにしろ、家でチャチャっと作るにしろ、中国料理の登場率が高くないだろうか。ほどよく油やスパイスの効いた料理は、脳の味覚野に直結して「うんまい!」と感じるし、なにしろワインが怖いくらい進む。ノンベエさんたちのウケは抜群なのだ。

餃子の皮を、巻いて揚げれば春巻き風に。野菜多めの具なら白やロゼがGOOD、肉たっぷりなら赤ワイン向き。

数年前までブームになるとは到底信じられなかったブームが、ついに来てしまっている。今や絶好調の町中華ブーム。本場の中国料理とは一線を画した、「幸せの青い鳥は身近なところにいたのか」的な、まわりまわっての町中華だ。ラーメン、五目焼きそば、エビチリ、などなどバリエーションは広いながら、どれもワクワク&ホッとするテイストである。そうして日本人の舌に馴染んできた中華は、家庭料理にも浸透した。家族みんなが大好きな餃子、ありあわせの食材でも作れるチャーハン、短時間で完成の野菜炒めは、料理当番の負担を軽くしてくれるお助けメニューだ。
そんなおうち中華だから、やっぱりワインをお供に据えたい。オイリーでスパイシーな料理に合って、肩ひじ張らないモードでも難なく楽しめるワイン。ある、ある、ええ、ほら、そこに幸せのローヌワインが!

ストックしておいた麻婆味の挽肉炒めを、ごま油で炒めた厚揚げにのせて一品出来上がり。冷ややっこやサラダにのせるなど応用自在、また挽肉だけなら冷凍もできるので、小分けにして保存しておきたい。

ローヌワイン委員会ワイン・ツーリズム&ワインスクール担当、クレマンス・デュランさん

9月に来日したローヌワイン委員会ワイン・ツーリズム&ワインスクール担当のクレマンス・デュランさんがwhy not!読者へオススメしてくれた料理は「ドーブ・プロヴァンサル」。牛肉をはじめいろいろな肉と野菜をワインで煮込む、南仏版おふくろの味だ。赤ワインで煮込んだら赤ワイン、白ワインで煮込んだら白やロゼが合わせやすい。

ローヌワイン、じつはこんなにマジメ

お手頃価格のワインが大半を占めるロゼで「コスパがいい」と認められるのは、ただ安いだけで得られる称号ではない。正直コスパというヤツは、誰もが気になりながらも曖昧な判断基準である。本来、ワインの価格は「味をどう感じたか」「その味に幾ら払えるか」の繰り返しで決められるべきなのだ。そこに希少価値やら話題性やらが絡んでくるから、ややこしいことになる。
ロゼの高評価で分かる通り、ローヌは派手なイベントを打ち出すことなく、堅実に名声を築き上げてきた産地。フランスでも最古のワイン生産地のひとつでありながら、人々は気さくで驕らず高ぶらず、日本人と同じ謙遜の概念も持ち合わせている。だから実直で職人気質と研究熱心に、よりおいしいワインを造り上げるため、いくつもの品種を混ぜるアッサンブラージュの技術向上、いち早い自然派への取り組みなど、人の眼につかないところで静かに改革を進めていったエリアだ。派手さはないが旨味が体に染みるおうち中華のように、じんわりとホンモノの迫力が伝わるローヌワイン。また、2022年9月にAOCジゴンダスで白ワインが認可されたなど、白ワインの生産量を上げる計画やロゼワインはフルーティから芳醇なガストロノミックなワインまでこちらも生産量が急拡大している。ブレンドもシラーやグルナッシュに主要品種以外に、気候変動に応じた補助品種の研究工夫もなされ、認可品種の数が多いローヌならではの「アッサンブラージュのアート」ともいえるワインが造られている。さらに詳しい「コート・デュ・ローヌ」の魅力を深掘りできる「アッサンブラージュと白ワインテロワール」についての記事もおぜひ一読を。

何が起こってるか、「コート・デュ・ローヌの今」を知りたい方はココをタップ
先入観にとらわれず、今のアルザス&コート・デュ・ローヌのワインの魅力を探る!

Why not?マガジン オススメ  ぜひ、飲んでほしいアルザスワイン 3選

画像左から
1.
Alsace Gewurztraminer Hospices de Colmar  2020  Domaine Viticole de la Ville de Colmar
アルザス ゲヴュルツトラミネール オスピス・ド・コルマール2020 
生産者:ドメーヌ・ヴィティコール・ド・ラ・ヴィーユ・ド・コルマール
輸入元:ラ・ヴィネ

グラン・シェ・ド・フランスに属している生産者で、ホスピス・ド・ボーヌのコルマール版。2020年は暑い年だった。少しシリアスな引き締まった香りで、フルーツよりバラの花の香りの方が優勢。優しい味わいで、余韻の苦味がトマトの甘さと良く合う。

2.
Alsace Pinot Noir 2021 Henri Schoenheitz
アルザス ピノ・ノワール2021
生産者:アンリ・ショーンハイツ
輸入元:セパージュ

この造り手はピノ・ノワールで2つのキュヴェがあり、これはスタンダードのもの。アルザスのクラシックなピノ・ノワールの表現。ラズベリーやチェリー、桑の実などの香りがする。100%花崗岩土壌なので、石灰岩と違って早めに香りが開き、エレガントでフレッシュな味わいでカリッとした口当たり。

3.
Alsace Riesling Roche Granitique 2018  Domaine Zind-Humbrecht
アルザス リースリング ロッシュ・グラニティック 2018
生産者:ドメーヌ・ツィント・フンブレヒト
輸入元:日本リカー
アルザスで最も有名なドメーヌのひとつ。バイオダイナミックを実践し、ビオディヴァン認証。これは砂状の花崗岩土壌のリースリング。香りが豊かで、火を入れた桃や洋梨やパイナップルが感じられる。花崗岩はいつも香りを豊かにする。味わいはまっすぐで引き締まっている。ここはグランクリュではないが、花崗岩らしいテロワールを発見してもらうのにとても良い見本的な1本。

Why not?マガジン オススメ  ぜひ、飲んでほしいコート・デュ・ローヌ ワイン 3選

画像左から
1.
Cotes du Rhone 2022 Le Caillou
コート・デュ・ローヌ白2022
生産者:レ・カイユー
輸入元:日本リカー

シャトーヌフ・デュ・パープのすぐ近くのクーテザン村。有機栽培を行い、AB認証を取得している。価格と品質と喜び、まさに3拍子揃ったワイン。ブドウ品種はグルナッシュ・ブラン(50%)、ヴィオニエ(35%)、クレーレット(15%)のブレンド。砂と大きな丸い石の土壌で水捌けが良く、ワインに複雑性をもたらしている。アプリコットなどのフルーティーな香りにフローラルさも加わり、繊細でエレガント。もう一杯飲みたくなるグルマンなワイン。クラシックなローヌのスタイルで、初心者の方たちにも親しみやすい味わい。アペリティフにも良く、ハーブを使った料理もオススメ。ナスやピーマンを使ったティアン・ド・レギューム(南仏の夏野菜のオーブン焼き)に最適。

2.
Cotes du Rhone Rose 2021 Tout naturellement…   Les Vignerons d’Estezargues
コート・デュ・ローヌ ロゼ 2021
生産者:レ・ヴィニュロン・デステザルク
輸入元:日本酒類販売
1965年設立のガール県の協同組合で、アヴィニョンの西に位置してタヴェルに近い場所にある。このロゼは、セニエ(果皮を果汁に浸漬する方法)のロゼとダイレクトプレス(直接圧搾する方法)のロゼをブレンドしている。ブドウ品種はサンソーとシラー。お料理と合わせたい力強いタイプのロゼ。赤い果実が香り、ストラクチャーもしっかりとした豊かな味わいで、グルマンなワイン。

3.
Cote du Rone Villages Plan de Dieu 2020 Domaine de L’Espigouette
コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ プラン・ド・デュー 赤 2020
生産者:ドメーヌ・ド・レスピゲット
村名付きのコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ。ボークリューズ村の家族経営のワイナリーで、ラトゥール兄弟が造っている。樹齢45年の古木のグルナッシュ75%、シラー20%、ムールヴェードル5%を、ステンレスタンクで発酵。ムールヴェードルをブレンドしているのでセレクトした。黒い果実とスパイスの香りが華やかで、フレッシュさがあり酸が味わいを軽く感じさせながら、ストラクチャーもしっかりしている。村名付きのコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュは、単体で飲むよりもお料理とともに楽しんでいただきたい。

RELATED

PAGE TOP