幻想的な箱根の森のただ中で、美しい花に囲まれながら行われた「バンケット・オブ・ネイチャー」は、「ペリエ ジュエ」第8代最高醸造責任者のセヴリーヌ・フレルソンさんのインスピレーションを形にしたものだった。
この催しのため最高醸造責任者に就任して初めて来日したセヴリーヌさんに、ご自身のこと、ペリエ ジュエのこと、バンケット・オブ・ネイチャーのことを聞いた。
「ペリエ ジュエ」第8代最高醸造責任者のセヴリーヌ・フレルソンさんからのメッセージをyoutubeでご覧いただけます
セヴリーヌ・フレルソンさんを表す3つの言葉 「情熱」、「記憶」、「直感」
1811年に創立したシャンパーニュメゾン、ペリエ ジュエは長い歴史の中でセラーマスターの職に就いたのはわずか8名だけ。その第8代目であるセヴリーヌさんを表す3つの言葉は、「情熱」、「記憶」、「直感」だと言う。
「情熱」
ワイン醸造は男性社会であると忠告されたにも関わらずその意志を曲げなかったと言う。いつ頃から「セラーマスター」という職を意識し始めたのだろうか。
「ワインの醸造に携わりたいと家族に伝えた時、『ラボで分析や研究をするのね?』と言われました。そうではなく、醸造の現場に立ち実際に畑に出てブドウと向き合い、アッサンブラージュを手がけるなどを希望していました。それが第一のミッション。学業を終えて現場に入ってから、もしかするともう少し次の段階へ進めるかもしれないと感じていました。ずっと門を閉ざさずに続けてきた結果だと思っています」と、セヴリーヌさん。
女性が現場に出て、しかもその長を務めるなど、10年前、20年前には一般的には考えにくいことだったようだ。今では男女6名から成る新たな醸造チームを率いている。この仕事への情熱を持ち続けていたからこその抜擢だったに違いない。
「記憶」
セヴリーヌさんは「ペリエ ジュエ ブラゾン ロゼ」を味見した時に、「祖母お手製のイチゴジャム」を思い出したと言う。ずっと忘れていたのにワインの香りで幼い頃の記憶が呼び覚まされるという経験は、テイスティングを通じて感じたことがある人はいるだろう。香りは不思議なものだ。もうひとつ香りにまつわるエピソードを教えてもらった。
「前任のエルヴェ・デシャンと『ペリエ ジュエ ベル エポック 1979』をテイスティングした時のことです。このキュヴェの醸造に携わったのは第6代目の最高醸造責任者アンドレ・バブレですが、彼自身の考え方や働き方を感じ取ることができました。本当にワインを通じて造り手のパーソナリティを理解できるのだと感じた瞬間です。仕事に対して精密で、自分を制してでも完璧なものを求める人だったとわかりました」。
ちなみにエルヴェさんは、「ペリエ ジュエ グラン ブリュット」が象徴するように、楽しく寛大で笑顔になる、エモーションをそのまま表現する人だったと言う。
「直感」
そして、セヴリーヌさんは直感を尊重している。例えば、ブレンドするワインを選ぶときに産地を見ないことがあるそうだ。プルミエ・クリュやグラン・クリュの枠にとらわれるのではなく、良いものは使う。ブラインド試飲によって見出した個性や潜在能力を感じた村や区画があるのだろうか。
「セザンヌのシャルドネもそうです。ヴィトリアのバシュエ村のシャルドネのフルーティーさはグラン ブリュットに良いですね。やはりグラン ブリュット用ですが、ヴァレ・ドゥ・ラ・マルヌのヴェルヌイユのムニエのグルマンさ、豊かさにも驚きました」。
「そしてこれはグラン・クリュですが、クラマンのシャルドネにとくに感銘を受けました。石灰質土壌に由来するエレガンス、ミネラル、直線的なニュアンス、そして熟成してから塩味が感じられる点も興味深いですね」。
シャルドネは、ペリエ ジュエのすべてのキュヴェにおいて重要な存在だ。とくにペリエ ジュエならではのフローラルさの表現の核となるのがシャルドネ。コート・デ・ブランのクラマンを筆頭に、その周辺のシュイィ、アヴィーズ、メニル・シュール・オジェも同様に重要な役割を果たしていると言う。
バンケット・オブ・ネイチャー
バンケット・オブ・ネイチャーの中でも伝えていたが、テクスチャー、質感もとても大切にしていると言う。ペリエ ジュエにとって理想のテクスチャーとは、また、いつ頃からテクスチャーを意識するようになったのだろうか。
「最も大切にしているのはやはりシルキーさですね。口の中でテクスチャーを感じる部分は、舌の奥で喉の手前です。私はワインを口に入れると反射的にこの立体的な刺激を感じます。例えばビロード、シルク、時にはレースやスウェードの裏であったり表であったり。テイスティングにおいて、初めはアロマから感覚を磨いてきました。でもここ10年ぐらい、どうして自分はコメントにこの言葉を使いたいのか考えた末に、質感に関係していると気がついて追求し始めました」。
赤ワインのタンニンを表現するのにテクスチャーに言及することが多い反面、まだシャンパーニュにおいてはそれほど追求されていないと感じている。だからこそ、まだこれから新しい感受性を追求していく余地があると言う。
「エクスペリエンスで、実際に花びらを触りながらペリエ ジュエを味わうことでいかにそれが関係しているのかわかってもらったのではないかと思います。自分の子供が赤ちゃんの頃に、色々なものを触って納得したものだけ口に入れているのを見ていて、感触は人にとって本能的で大切なものだと感じていました」。
セヴリーヌさんは、今後もテクスチャー、そしてワインの複雑性、ペリエ ジュエならではのシャルドネのさらなる追求、エレガンスや精密さ、もちろんフローラルさやテンションなどを含め、あらゆる探求を継続」していく。(Y. Nagoshi)