「バロン・フィリップ」として知られるフィリップ・ロスシルド男爵は、1922年に20歳でシャトー・ムートン・ロスチャイルドの運営を任されました。それから100年経過した2022年のヴィンテージのラベルには、フィリップ男爵の肖像画、牡羊、シャトーのペディメント(破風・はふ)、ブドウが描かれ、「1922 2022」の数字も記されています。
そしてアーティストのジェラール・ガルーストは、「フィリップ男爵へのオマージュ」というタイトルを添えました。
フィリップ男爵は1981年に出版された自叙伝『ブドウ畑に生きる Vivre la Vigne』に、こう記しています。
「私の時代の幕開けから100年後、果たして記念すべき年となっているだろうか」。
これを受け、男爵の曾孫に当たりムートン・ロスチャイルドの芸術文化事業を統括するジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスシルドは、これまでの100年の歴史を讃える作品を、象徴的かつ幻想的な手法で知られるフランス人アーティストのジェラール・ガルーストに依頼したのです。
この2022年のアートラベルは、12月1日のシャトーでの公式発表と同時に、ワインショップ・エノテカ GINZA SIX店で、少人数のゲストへ披露されました。バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社から選ばれたこのラベルを発表する世界8社のパートナーのうち、エノテカは、アジアに拠点を置く企業としては唯一であったとのこと。ラッキーなことにこのイベントで一足早く味見もさせていただきましたが、実際に2022年が市場にリリースされるのは2025年5月頃を予定しているそうです。2022年のヴィンテージは、始まりから温暖で乾燥し、生育期には継続して日照量に恵まれ、夏も暑く乾燥し、熱波にも見舞われるなどして早熟だったといいます。収穫は9月1日に始まり26日まで続きました。カベルネ・ソーヴィニヨン92%、メルロ8%のブレンドです。
グラスに注がれた2022年の色合いはとても濃い赤で、中心部分は黒みがかっているほど。香りも凝縮していて深く厚く、ブラックベリーやカシスなどの果実、インク、カカオ、ブラックチョコレート、スパイスといったさまざまな要素が感じられます。口に含むとさらにその凝縮度が実感でき、ベルベットを思わせる厚さとグリップがあり、とても強いストラクチャーで、噛めるようなニュアンスです。骨と筋肉のバランスがしっかりとしたギリシャ彫刻の筋肉美を見ているようなイメージでしょうか。おそらくこのバランスを保ちながら何年も、何十年もゆっくりと熟成していくのでしょう。もし入手されるなら、まず1本めを開けて大きなグラスで1杯をじっくりゆっくり楽しんで、5年か10年ごとに1本ずつ開けて成長を楽しむのが良さそうです。
(Y. Nagoshi)