ビヨー・シモンの栽培・醸造を統括するオリヴィエ・バイィさん(上)@Billaud Simon
「シャブリ」は、日本で最も良く知られるワインのひとつです。きっとワイン好きの皆さんは何度か飲んだことがあることと思います。
そしてそのシャブリのもととなる「シャルドネ」は、日本で最も有名なブドウ品種のひとつですよね。でも、ご存知でしょうか? ワインの世界的権威である「マスター・オブ・ワイン」(通称MW エム・ダヴリュー)には、世界中のシャルドネを知っているにも関わらず「シャブリ」は唯一無二のシャルドネであると敬愛する人が多いのです。
なぜ「シャブリ」がそれほど魅力的なのか?
1815年創業という老舗、ドメーヌ・ビヨー・シモンの「シャブリ」で検証してみたいと思います。
今回は、ドメーヌ・ビヨー・シモンの5銘柄「シャブリ」、「シャブリ テット・ドール」、1級畑の「ヴァイヨン」、「モンテ・ド・トネール」、特級畑の「ヴォーデジール」を比較試飲してみました。いずれも、とても良いヴィンテージ2022年のものです。
シャブリのヒエラルキーは、「プティ・シャブリ」、「シャブリ」、「シャブリ プルミエ・クリュ(1級)」、「シャブリ グラン・クリュ(特級)」ですから、「シャブリ」のスタンダードと上級キュヴェの2銘柄、「プルミエ・クリュ」の異なる畑の2銘柄、そして「グラン・クリュ」の1銘柄を試したことになります。
<シャブリ2銘柄の比較>
まず、スタンダードな「シャブリ」とより条件の良い畑のブドウを使用した「シャブリ テット・ドール」を比較。
「シャブリ 2022」
試飲すると、ミツリンゴや柑橘類などのピュアな果実の香りがはつらつとして、しなやかなアタックで一体感のあるテクスチャー。フレッシュな酸とミネラル感が現れ清々しい塩レモン的余韻は、鋭角的ではなく、マイヤーレモンのような印象。
「テット・ドール 2022」
1級畑「モンテ・ド・トネール」のクリマ周辺に位置している畑のブドウを使用した上級シャブリです。香りには光沢が感じられ、さらにピュアな香り。味わいは果実・酸・ミネラルのバランスが素晴らしく、余韻はレモンというより、日向夏的な柑橘を思い起こす印象で、本当に心地良いテクスチャーです。
単体で飲むとわかりにくいかもしれませんが、並べて味見すると、香りや味わいの違いが手に取るようにわかるはずです。この違いが1,000円強の価格の差なのです。
<シャブリ プルミエ・クリュ2銘柄の比較>
シャブリのプルミエ・クリュ(1級畑)は、シャブリ地区を流れるスラン川の右岸と左岸の両方にあります。右岸にはグラン・クリュ(特級畑)もあり、より日照に恵まれた畑が多いためブドウが成熟するのにより条件が整っていると言われています。今回は左岸で最も早くプルミエ・クリュに認可された畑のひとつ「ヴァイヨン」と、右岸の特級畑のレ・クロやブランショの対岸に位置する「モンテ・ド・トネール」を比べてみました。
「ヴァイヨン 2022」
このクラスになると、さすがに香りの強度が上がります。ミツリンゴや柑橘に加え、白い花のアロマが真っ直ぐに立ち上りやはりとてもピュア! しなやかなアタックで芯のある味わいには、一段とミネラル感が増して骨太になった印象で、エレガントでありながら力もあり、バランスが素晴らしいです。
「モンテ・ド・トネール 2022」
試飲すると香りはよりソフトに感じられ、ブドウの熟度の高さを想像させます。ピュアな白い果実に加え、白い花のアロマも。なめらかなアタックでふくよかさも感じられ、しかし骨格もしっかりとして、酸は果実に包まれていますが、余韻は実にミネラリー。勢いのあるエネルギーが感じられます。今でも美味しく飲めますが、数年待っても良さそうです。
同じプルミエ・クリュというクラスであっても、畑がどこにあるのかでブドウの出来が変わります。畑の標高、向き、風通し、日照量、斜面の角度、土壌(表土と母岩)、などなどなど、これらがひとつでも異なることで同じシャルドネというブドウ品種であっても、その表現力が異なるわけです。
<特級畑のヴォーデジール>
今度はいよいよグラン・クリュ(特級畑)です。
「ヴォーデジール 2022」
さすがグラン・クリュです。香りの強度はさらに増し、少しスパイスの要素も見られ、熟したリンゴ、ミラベル、柑橘類、白い花のアロマが香ります。なめらかなアタックで全体にふくよかに感じられ、ストラクチャーもしっかりした骨太タイプ。筋肉はあるが脂肪はないイメージで、ミネラルの芯が強いのでまだ数年待ってから開けると、さらに真価が発揮されること間違いありません。
200年以上の歴史あるドメーヌ・ビヨー・シモンは、実にシャブリらしいワインを一切の妥協なく造り続けています。また、ブドウをゆっくりと成熟させ収穫をできる限り遅めにしているというので、このブドウの熟度がシャブリらしい骨格やミネラル感、フレッシュな酸との秀逸なバランスを取っているに違いないと感じました。 (Y. Nagoshi)
輸入元:ラック・コーポレーション
さらに詳しく知りたい方へ
WANDS WEBの記事もご参照ください。
そしてさらに、もっともっとシャブリを追求したい方へ
大橋建一MW著「シャブリ 日本のワイン市場を俯瞰する」(WANDS刊)で畑の場所や特徴を確認しながら比較試飲すると、シャブリの奥深さを確認でき実に面白いので、この書籍を傍に、ドメーヌ・ビヨー・シモンの水平試飲をしてみてはいかがでしょうか。もちろん、この著書の中でもドメーヌ・ビヨー・シモンが出てきます! この書籍はAmazonで購入できます。