ワイナリーオーナーの世代交代アラン・ブリュモンのケース
アラン・ブリュモン(父)からアントワン・ヴェイリー(息子)へ
インタビュー・文/藤崎聡子
アラン・ブリュモン
1979年に父から畑を受け継ぎ、フランス南西部のピレネー山脈近く、20年間の研究を経てマディランのテロワールを拡大、AOCマディランの名門ワイナリーを一代で築いたカリスマ醸造家であり経営者。タナ品種を用いたワインを世界に広め、フランスワイン界に与えた影響は大きく、1997年にはフランス最高勲章「レジョン・ドヌール」を受勲。2020年には評価本“ベタンヌ・エ・ドゥソーヴ”で、『フランス南西地方唯一の5つ星生産者』と評価を獲得。テロワールにこだわる彼の功績は、世界で認められている。
アントワン・ヴェイリー。29歳。
14歳から父・アラン・ブリュモンのアドバイスのもと、時間を見つけては世界の名門ワイナリーへ訪問、ワインメーカーとしての修業、トレーニングを積む。2017年、今世界が注目しているボルドーのワイナリー・シャトー・レ・カルム・オーブリオンで醸造のテクニックを学び、自身がこれからどのようなワイン作りをしていくのか、寝る間を惜しみ多くの経験をしてきたそして2023年、父よりバトンを受け継ぐ…
「ドメーヌ・アラン・ブリュモン」。アラン・ブリュモンとは一人の男性の名前である。彼がフランス南西地方でワイン造りを始めた当初はこの地方はほぼ注目などされていなかった。彼が一代でここをフランスの新しい銘醸地たらしめた。
アラン・ブリュモンの功績はフランス・南西地方のワインそのものの価値を高めてきたことだ。1980年に20ヘクタールのワイン畑を購入、土着品種となるタナ種の栽培に精力を注いできた。タナは非常にアタックの強い味わい。しなやかというよりは質実剛健、明確な芯の強さがある。それがそれまでのタナの評価。一方でアラン氏はテロワール=土壌=の研究、個性、どのように栽培すると自分が求める味わいのブドウに成長していくのか、そもそもタナが持つポテンシャルの高さを生かすには何が必要なのか、徹底的に追及してきた。そのひとつが「生物学を専門に研究しているスタッフを雇用する」ことだ。これは今でも続いている。アントワン氏は「ブドウ栽培はブドウを育てることだけではない。環境の豊かさ、今畑で何が起こっているのか、これらを考えることが一番。父が30年以上前からこれらを意識してワイナリーを作り続けてきたことに僕は改めて尊敬の念があります」。と語る。
今やアラン・ブリュモンの畑は90の区画を所有するまで拡大、それぞれの区画の特性を日々リサーチしている。アラン氏は言う。「ボルドーのような広大でフラットなワイン畑ではないからね。急斜面だったり、小石が詰まれていたりしているのがうちの畑の特徴。ブドウ収穫もそう簡単ではない。落っこちないように命がけ(笑)。そのような環境でもブドウの樹はしっかりと根付いて魅力的な実をつけてくる。区画ひとつごと味わいが違うのも当たり前。その個性を引き出していくこと。ワイン作りはこれに尽きる」。
アントワン氏はこれを聞いて「僕は恵まれた環境にいると常々思う。父と交流のある名だたるワイナリーでいろいろな世界を見せてもらってきたから。それはそれで絶対活かせる時が来るはず。自分の畑に戻って父と話続けている毎日だし、父のこれまでの偉業をどう続けていけるのか、自分のやってみたいことをどう形にしていくのか、未知の可能性が広がっている。一方で父の変わらないワイン作りの想いを改めて理解した部分もある。それは【ワインは毎晩テーブルで、食卓で楽しむためのものであるべき】という考え。これは多くのワイナリーを見てきて葛藤もあったけど、でもアラン・ブリュモンのワインはこの信念を続けることが宿命なのだろうな、と将来を見据えることもできてきた気がします」
アラン氏は「ワインは楽しむものであって、投資の対象になるべきではない」とアントワン氏が幼い頃から言い続けてきていると語ってくれた。これは彼のワイン造りへのアティチュードのひとつだ。
「ブルゴーニュ、ボルドー、ローヌ、フランス全土だけではない、それはそれは素晴らしいワインを作る生産者の仲間がいます。彼らのワインは投資の対象でもあり、簡単に1万ユーロを超える市場が存在するのも事実です。それは私がワイン作りをしてきている精神とは真逆。私はもっと広くこの南西地方のワインを知ってもらいたい。タナ種の可能性、新しい品種の成長、ブレンドすることで生まれる複雑な味わい、そして料理と合わせやすいこと。まさにこれぞガストロノミーワイン、ワインの最たるものと思うのです。アントワンにはこの精神を忘れないでいてほしいと願いますね」。
ガストロノミーを牽引する
最高峰レストラン「ジョエル・ロブション」と
南西地方最高のワイナリー「ドメーヌ・アラン・ブリュモン」の両者で
コラボした特別なワインが日本にお目見え
ガストロノミーワイン、この秋お目見えするワインがある。古代のフランスブドウ品種土地台帳を紐解き、南西地方でピノ・ノワールが生産されていた時代があったことを突き止めたアラン氏。約30年前から研究、ようやく完成したこのワインはガストロノミーの世界を牽引してきているジョエル・ロブションのシュームジュール(フランス語でオーダーメイドの意味)として世界中で気軽に楽しめるようになる。他にもシャルドネ、南西地方の土着品種・プティ・クリュピュ種を主体にブレンドした白、アラン・ブリュモンの得意とするタナ種を主体にブレンドしたものもある。どれも魅力的だが、やはりここはピノ・ノワールの偉大さを知ってほしい。洗練された柔らかなタンニン、美味しさを納得させるピノ・ノワール特有のチャーミングな香り、そしてバランスの良い熟成感。これからの季節ならいろいろなキノコ類をミックスしてソテーしすり下ろしたコンテと合わせた一品と試してほしい。ともに共通するのは旨み。相乗効果のマリアージュが生まれるに違いない。これぞガストロノミーワインである。ワイナリーオーナーとして、アントワン氏の幕開けに華を添えたアイテムたち。アラン・ブリュモンのパッションをぜひ味わってほしい。
「ジョエル・ロブション」でハウスワインとしても提供されるコラボワインではあるが、全国の酒販店でも販売されるので、自宅でももちろん楽しめる。ロブションに「行ったつもり」で食卓をロブション、アラン・ブリュモンの職人が造った極上のワインで彩ろう。ギフト用商品もあり贈られた方が喜ばれること確実!
ラインナップ
生産者は全てドメーヌ・アラン・ブリュモン、産地はフランス/南西地方
※価格は税別
ジョエル・ロブション シャルドネ シュームジュール by アラン・ブリュモン
品種/シャルドネ100%
土壌/シャトー・ブースカッセの粘土質と石灰岩土壌
格付け/ヴァン・ド・フランス
参考価格/5,000円
しっかりとした果実味があり、クリーミーでリッチな味わいのワイン。
ジョエル・ロブション ピノ・ノワール シュームジュール by アラン・ブリュモン
品種/ピノ・ノワール100%
土壌/シャトー・ブースカッセの粘土質と石灰岩土壌
格付け/ヴァン・ド・フランス
参考価格/4,000円
滑らかなタンニンと、心地良い酸が後味に感じられる。エレガントでストラクチャーがありバランスに優れた味わい。
ジョエル・ロブション ブラン シュームジュール by アラン・ブリュモン
品種/プティ・クリュビュ70%、 プティ・マンサン30
格付け/ACパシュラン・デュ・ヴィク・ビル
土壌/シャトー・ブースカッセの粘土質、石灰岩土壌
参考価格/2,500円
アタックは滑らかで、洋梨やパパイヤを想わせる甘みと酸とのバランスの良い味わいが広がる。
ジョエル・ロブション ルージュ シュームジュール by アラン・ブリュモン
品種/タナ60%、カベルネ・ソーヴィニヨン20%、カベルネ・フラン20%
格付け/ACマディラン
土壌/シャトー・ブースカッセの粘土質と石灰岩土壌、シャトー・モンテュスのガレ(川由来の石)
参考価格/2,500円
滑らかで、優しく穏やかなタンニンとともに、長い余韻を感じるエレガントなワイン。