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英国が美食の大国に? 進化する食文化を知る「GREAT フード&ドリンクキャンペーン」開催

文・写真/池田美樹

「イギリスの食べものはおいしくない」。かつては当たり前のように言われていたこの固定観念が、大きく覆されるかもしれない。去る11月14日、東京都内で英国政府主催のイベント「GREAT フード&ドリンクキャンペーン」が開催された。集まった200名を超える参加者たちが体験したのは、既存のイメージをはるかに超える英国の「新しい食」だった。

地図上の生産地の上にボトルを置くというしゃれた演出

会場のテーブルには英国の地図がテーブルクロスとして広げられ、その地域で生産されている酒類がチェスの駒のように置かれている。気になったのはスパークリングワインだ。一見シャンパーニュかと見紛うこれらの銘柄は、実はすべて英国産。ここ数年、「イングリッシュ・スパークリング・ワイン(ESW)」として世界のワイン市場で注目を集めている。

左から、ESW「ラスフィニー」「バルフォア」「ブラック・チョーク」

特にロンドンからも近いイングランド南部サセックス州は、シャンパーニュ地方と同じ白亜質の土壌を持つ。この地質は「パリ盆地」として知られる白亜層の一部で、フランスから海底を通ってイングランド南部まで続いている。海からの影響を受ける温暖な気候もあり、高品質なスパークリングワイン用のブドウ栽培に理想的な環境なのだ。

細かな泡と酸が印象的な「ラスフィニー」 写真提供:英国政府

サセックス・スパークリングワインは原産地保証保護(POD)を取得している。この日は2010年にロンドンの金融街で働いていた夫妻により創業された「ラスフィニー」のクラシック・キュヴェ 2018が振る舞われたが、すべてのキュヴェがミレジメで低ドザージュという、こだわりある生産者だ。ESWはこれから市場で見かけることも増えてゆくかもしれない。

多くの人で賑わった会場の様子

もちろんスコットランド産ウイスキーをはじめとしたウイスキーやジンといった蒸留酒のラインナップは厚い。特に北アイルランドでは、伝統ある蒸留所が顔を揃える中、近年、新しい個性あふれる蒸留所が次々に登場していることも紹介された。英国ジンの輸出は年々伸び続け、今後さらなる成長が期待されている。

ウイスキー、ジン、ESWに合わせて楽しむ食として、4地域から食材が紹介された。ウェールズの雄大な丘陵地帯で育てられたPGI(地理的表示保護)認定ラム肉、環境に配慮した持続可能な漁法で獲られているスコットランドのサバ。そして驚くべきことに、英国のチーズは現在700種類以上が製造され、その数はフランスをも上回るという。

左上から時計回りに、ウェールズ三ラム肉マスタードソース添え、スコットランド産サバの梨添え、
イングランド産チェダーチーズのタルトレットとりんごのコンポート、
北アイルランド産牛肉のコロッケ柿ジャム添え

英国の食品・飲料輸出は2022年に過去最高の248億ポンド(約4兆9,000億円)を記録した。特に日本市場では、英国産ウイスキーの輸出額が2023年に1億7600万ポンド(約348億円)に達し、増加傾向にあるという。

マリークレア・ジョイス英国通商省貿易参事官(右)

駐日英国大使館のマリークレア・ジョイス英国通商省貿易参事官は、「このイベントは、国の味を日本に紹介するだけでなく、両国の強固な貿易関係を強調するものだ」と述べ、日本市場への意欲を語った。

2025年の大阪・関西万博では、英国産の食品や飲料を紹介し、英国パビリオン内に専用レストランとバーが設置される予定だ。アート、音楽、ファッション、カルチャー。世界をリードしてきた英国に「美食の国」という呼び名が加わる日も近いかもしれない。

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池田美樹

エディター。仏シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ叙任。出版社社員時代の1990年代、ワイン特集の担当になったことをきっかけに、ワインをはじめとする酒と食を巡る文化に造詣を深める。世界40か国を旅し、世界一周クルーズも経験。最近では日本の良さを再発見することがライフワーク。作家としての別名・如月サラでWhynot?マガジンにて『如月サラの葡萄酒奇譚』連載中。

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