文/山田 靖
読んだ小説や観た映画に登場したお酒へ興味を持ったこと、あなたにはありませんか? 筆者は、中学生の頃に読んだレイ・ブラッドベリの「たんぽぽのお酒」という小説がそうだった。1928年のイリノイ州の架空の町を舞台にした、12歳の少年のひと夏を描いた彼の自伝的でかつファンタジックでもあるお話。筆者はこの小説のストーリー(もちろん面白いのだけど)よりも、タイトルでもありお話の重要なモチーフとして登場した「たんぽぽのお酒」に俄然、興味を持っていかれた。実は自分で作ってみたりもした(よい子も悪い子もまねしないでね)。まぁ、できあがった「たんぽぽ酒」は飲めたものではなく、いまでもとても苦い思い出だけど、私にとって「たんぽぽ」というと「ラーメン」でも「オムライス」でもなく「夏の味、苦いお酒」(=たんぽぽ酒)だ。
前置きが長くなったけれど、今回紹介するのは「ミード(蜂蜜酒)」。実はこのお酒も、筆者がその存在を知ったのは全世界的に売れまくった「ハリー・ポッター」に出てきたときだ。「ハリー・ポッター 謎のプリンス編」。魔法薬学の新任教授としてホラス・スラグホーン教授が初登場した時の話だ。詳しい内容は省くが、スラグホーン教授が振る舞い酒をするときにワイン、バタービール、そして樽熟成したミード(蜂蜜酒)のどれにしようか迷い、選んだのがミード(蜂蜜酒)だった。調べると世界最古のお酒とも言われるお酒だ。ときに「ハニーワイン」なんて呼ばれることもあるので、ワインの一種なんて間違った認識を持つ人もいるかもしれないが、ミード酒は蜂蜜を発酵させて造られる醸造酒なのである。ワインはブドウのみから造られるが、蜂蜜は糖度が高く単体では発酵することができないため、水を加え糖の比率を下げ酵母を加えて発酵させていく。 そのミードに惚れ込んだある男性が、日本の蜂蜜を使い日本で醸造したミードを造っている。
ミード酒の魅力を極める養蜂家であり醸造家が現れた
その人物はエリック・ボシック(アメリカ人)。彼は映画監督塚本晋也の作品サイバーパンクムービー「鉄男 THE BULLET MAN」に主演もしている俳優であり、フォトグラファーという肩書きも持っている多才な人物。そのエリックは2017年よりミードを造るために養蜂家として蜂蜜の研究を重ね、醸造技術を学ぶためにカリフォルニア大学デービス校で「ロバート・モンダヴィ・スクール・オブ・ワインメーキング」を修了と、技術も習得している筋金入りなのである。その彼が手がけたミード「RING OF FIRE」は、2021年アメリカで開催されたミード専門国際コンクール「メイザー・カップ プロフェッショナル部門」で日本初の金賞を受賞している。ほかに手がけたミードもヨーロッパ最大のミードコンクールでも金賞を受賞するなど、高い評価を受けている世界的に注目の醸造家なのである。
良質な蜂蜜は最良なオーガニック環境からしか造られない
ミードの主役は蜂蜜である。蜂蜜はそれを集めるミツバチの健康状態、花や土壌の状態がその品質に作用する。まずエリックは養蜂家として蜂蜜の味・香り、品質を吟味する。 少し話がそれるがワインに詳しい人はご存知かもしれないけれど、ワインを造るワイナリーは生態系を守るために、ワイン造りと同時に養蜂も行うなどミツバチを大切な存在として扱い、ミツバチの健全な育成に取り組んでいるところがある。ここで疑問がある。ブドウはミツバチの受粉によってできるわけではない。では何故?ミツバチを大切な存在としているのか?
そう、それはミツバチは有機栽培された花からしか蜜を集めないからなのだ。サステナブルやオーガニックなワイン造りのため、どのワイナリーも有機農法に取り組んでいる。だからミツバチのいる畑は健全な土壌の証左でもある、というわけだ。
蜂蜜にとってテロワールが重要なのは、そういう背景もあってのことなのである。また、ミードは蜂蜜と水から造られると書いたが、水も重要なファクターだ。だからこそ、エリックは日本の蜂蜜と水にこだわっている。そしてもう一つの主役は、発酵のための酵母だ。ここからはエリックの醸造家としてのセンスが発揮される。ワインに使われる酵母や日本伝統の清酒酵母を使い分け、最終的なミードに合わせ、ラム樽やフレンチオーク樽を使い醸造していく。
そしてハネムーンのお祝いにも重宝されそう
ミードは甘味が強いお酒ではあるが、冷蔵庫で冷やして食前食後酒としてだけではなく、魚介料理やチーズなどと相性がよく食中も楽しめる。また、結婚のお祝いにプレゼントするのにも適しており、それにはちゃんとした意味がある。
ハネムーンは「honey+moon」。蜂蜜は「honey(ハチミツ)」、月を意味する「moon(月)」を組み合わせた言葉で、「蜜月」も意味している。古代ゲルマン民族ではそんなミツバチにあやかり子宝に恵まれますようにという願いを込め、子孫繁栄のために結婚後1ヵ月間は蜂蜜酒を飲むという習慣があり、新婚を祝う言い伝えがあるそうだ。さすが世界最古のお酒。言い伝えには事欠かない。
ハリー・ポッターファンはもちろん、世界最古というストーリーに惹かれるあなた、新婚の方々、興味の始まりは何にしろ、皆さんにぜひ飲んでみてほしい。
今回紹介するミード(蜂蜜酒)は3種類
セレニティー
蜂蜜/京都産山藤蜂蜜
酵母/モンペリエ白ワイン酵母
アルコール度数/11%
飲み方/冷蔵庫で冷やし、氷は入れない
希望小売価格/3,960円(税込)
容量/375ml
山藤蜂蜜の繊細な味わいを損なわないように、繊細に温度や発酵時間を管理。芳醇な香り。
スルー ザ ツリー
蜂蜜/秋田産カエデ蜂蜜
酵母/アルザス産ワイン酵母
アルコール度数/10%
飲み方/冷蔵庫で冷やし、氷は入れない
希望小売価格/3,960円(税込)
容量/375ml
醸造段階でフレンチオークチップを投入。スパイスのような香ばしい風味とカエデ蜂蜜の上品な香りと混ざり深味のあるテイスト。
リング オブ ファイア
蜂蜜/長野産リンゴ蜂蜜
酵母/ブルゴーニュ産ワイン酵母
アルコール度数/10%
温度/16℃~18℃
希望小売価格/3,630円(税込)
容量/375ml
ボシェという、1393年にフランスで生まれたミード酒(蜂蜜酒)のレシピで造られたお酒。蜂蜜をキャラメリゼしてから作るのが特徴で、信州長野のリンゴ蜂蜜を濃厚なキャラメル状になるまで熱し、ブルゴーニュ地方で育ったワイン酵母で発酵させ、マダガスカル産バニラビーンズを加えます。こちらは食後のデザートスタイル。