エミール・ガレの描いたアネモネが美しい、ペリエ ジュエのアイコン「ベル エポック」。その最新ヴィンテージとなる2015年がリリースされた。さまざまなメゾンがミレジメを発表する2015年だが、「太陽の年」という評判に加え、「生育が不均質で難しい年」という話も耳にする。「ベル エポック」はいかにしてそのスタイルを保ったのか。8代目最高醸造責任者のセヴリーヌ・フレルソン氏に話を聞く。
ーー2015年はどのようなヴィンテージでしたか?
セヴリーヌ・フレルソン(以下、SF):冬はあまり寒くなく、でも雨がち。開花期の5月、6月からすでに暑く、夏は記録的な暑さになりました。8月に雨が降って房が肥大し、9月8日から収穫が始まりました。過熟したブドウもあれば未熟なブドウも見られる、不均一でコントラストの激しい年といえるでしょう。
発酵後、固く閉じ気味で厳しい感じのワインも見られましたが、そうした中でもピノ・ノワールに比べてシャルドネはうまく乗り切ったと思います。テロワールを反映したこの年は、アッサンブラージュでどこのブドウを使うかが大きな鍵となりました。
ーー2015年の「ベル エポック」はどのようなアッサンブラージュになりましたか?
SF:品種構成はいつものとおり、シャルドネ50%、ピノ・ノワール45%、ムニエ5%。使用したクリュは、シャルドネがクラマン、アヴィーズ、オジェ、ル・メニル・シュール・オジェです。シャルドネは肉付きがよく、果実味も芳醇で、ピノ・ノワールときれいにハーモニーがとれました。ピノ・ノワールはマイィ、ヴェルジー、ヴェルズネ、アンボネ、ムニエはディジーです。
ーードザージュは何g/ℓですか?
SF:こちらからお聞きします。何g/ℓだと思われますか?
ーーう~ん、二桁ではありませんよね。8g/ℓでしょうか?
SF:通常、ベル エポックのドザージュは8g/ℓですが、2015年は1g少ない7g/ℓにしました。ベル エポックはガストロノミーのためのシャンパーニュで無闇にドザージュの糖分を下げればよいものではありません。じつは2015年のドザージュで、糖分量よりも重要なことがあります。
ーーそれはなんでしょう?
SF:リキュール・ド・ドザージュです。私にとってドザージュのリキュールは最後の仕上げで、とてもこだわりのある部分です。夏に記録的な暑さとなった2015年にフローラルなアロマとデリケートな風味を与えるため、2015年のリザーヴワインの中からル・メニル・シュール・オジェのシャルドネを用いました。シェフ・ド・カーヴに就任してからは毎年、ドザージュのリキュール用にクリュ別のシャルドネのワインをリザーヴしています。
ーーそういえば、昨年リリースされた「ベル エポック フロレサンス 2015」にも特別なリキュールを使われていましたね。
SF:はい。クラマン、オジェ、ル・メニル・シュール・オジェ、ヴェルテュのシャルドネとマイィ、ヴェルジー、アンボネ、アイのピノ・ノワールからなる白ワインに、アンボネとリセイのピノ・ノワールから赤ワインを8.5%アッサンブラージュしたものです。私はフロレサンスを造るにあたって「昇る太陽」をイメージし、2018年のリセイのピノ・ノワールから造られた赤ワインと2019年のアヴィーズのシャルドネから造られた白ワインを半々アサンブラージュしたものをリキュールとして用いました。そのリキュールが占める割合は1本あたり1.5%でしょうか。
ーー以前、あなたはテクスチャーの重要性について語られたことがありました。「ベル エポック 2015」のテクスチャーについてはいかがですか?
SF:この2015年を象徴するテクスチャーはカーネーションです。カーネーションを手で触れた時のような、デリケートなテクスチャーをもっています。
ーー先ほど2015年の夏は記録的な暑さと言われましたが、それ以降もシャンパーニュ地方では暑い年が続き、記録を塗り替えています。そうした中で、「ベル エポック」ならではのフレッシュさ、デリケートさ、エレガンスを維持するため、どのような取り組みをされていますか?
SF:それについては3つの試みが挙げられると思います。まず第一に収穫のタイミングです。ブドウの成熟を待ちつつも、酸が落ちず、爽やかなアロマが得られる段階で摘み取るようにしています。昨2023年では、公式な収穫開始日よりも前に収穫を始めました。
第二にマロラクティック発酵のブロックです。以前は100%マロラクティック発酵をしていましたが、2020年からは部分的にブロックするようにしています。2023年はブロックしたワインの比率がかなり高くなりました。
第三に環境再生型ブドウ栽培です。もともと環境への負荷を減らし、生物多様性を促進する目的で始めたプロジェクトですが、ブドウのフレッシュさを保つにも効果的なことがわかりました。
この栽培では5月末頃、ブドウの畝間にライ麦等の植物を育てていますが、それが地面を覆う日傘の役目を果たし、地熱を下げてくれます。地熱が下がることでブドウの急速な成熟が抑えられ、バランスのとれた糖と酸が得られるようになるのです。
環境再生型ブドウ栽培は、現在、自社畑の40%で行われていますが、2030年には100%にすることを目指しています。また、契約農家に対しても、この取り組みへの協力を働きかけていきます。
取材・文 柳 忠之
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