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シャンパーニュ Champagne

ルイナールとアート  写真から読み取る シャンパーニュの気候変動

19世紀末、アール・ヌーヴォーを代表する芸術家のアルフォンス・ミュシャに宣伝用ポスターを依頼して以降、アートとの結びつきを深めるルイナール。毎春、京都で開催される国際的な写真祭「KYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭)」も2016年からサポートし、2021年には「ルイナール・ジャパン・アワード」を創設。インターナショナルポートフォリオレビューに参加したフォトグラファーの中からひとりに同賞を授与し、ランスのメゾンへ招聘。シャンパーニュ地方での滞在中に制作した作品を、翌年のKYOTOGRAPHIEで発表している。

2021年の鷹須由佳氏、2022年の山田学氏に続き、2023年のルイナール・ジャパン・アワードを受賞したのは柏田テツヲ氏。今年4月13日から5月12日まで開催された「KYOTOGRAPHIE 2024」では、祇園の禅寺・両足院を会場に、柏田氏の「空(くう)をたぐる」と題した作品が展示された。

柏田氏は1988年、大阪府の生まれ。2010年に渡豪して写真を学んだ。2019年にふたたびオーストラリアに訪ねた際に大規模な山火事を経験。これをきっかけに気候変動がもたらす人間社会への影響について意識するようになった。インターナショナルポートフォリオレビューで受賞したのも、屋久島の自然環境をテーマにした「Nearly Equal」という作品である。

両足院に展示された写真は、夏のような青空、大きさも熟度も不均一なブドウの房、ブドウ畑に横たわる作業員、ワイルドベリーとその日の新聞など。

「私がシャンパーニュ地方を訪れたのは収穫真っ盛りの初秋でしたが、昼間は真夏のように暑かった。レーズンのように萎びたブドウや極端に肥大したブドウもあちこちで見られ、メゾンの人たちはシャンパーニュの未来を案じていました」。

柏田氏の作品の中に、毛糸で編まれた蜘蛛の巣がブドウの樹の枝に絡まっている画像がある。これはブドウ畑の中を撮影中、たまたま足に絡まった本物の蜘蛛の巣を見て閃いた仕掛け。うっかり見過ごされがちな小さな生き物の存在する証を、同じく見過ごされがちな気候変動のメタファーとして作品の中に組み込んだ。

気候変動の顕在化が進むなか、シャンパーニュ地方の各メゾンもただその事実を傍観しているだけではない。最古のシャンパーニュメゾンであるルイナールも、環境負荷を抑えるため従来のギフトボックスを廃し、リサイクル可能な紙製のセカンドスキンを採用。さらにブドウ畑とブドウ畑の間に緑の緩衝地帯を作り、そこに虫や鳥などを呼び集める「生物多様性のためのコリドー」を設けた。これにより一度はいなくなった虫や鳥がまたブドウ畑に戻りつつあるという。柏田氏はシャンパーニュ地方が直面する危機だけでなく、かすかな希望の映像もフィルムに収めた。

「気温が1℃違うだけでブドウの成熟が大きく変わることを初めて知りました。ぼくの作品を見た人たちが気候変動への危機感を共有し、メゾンの取り組みに関心をもってくれたら本望です」。

(photo & text by TADAYUKI YANAGI)

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