フランソワ & ピエール兄弟
文・写真/島 悠里
Champagne Huré Frères(ユレ・フレール)を訪問したとき、当主のフランソワ・ユレさんと一緒に「ドサージュ」を決めるテイスティングに参加するという、貴重な体験をしました。
ユレ・フレールは、モンターニュ・ド・ランス地区のリュード村を拠点とする生産者で、両親から畑を受け継いだ兄弟が、真摯に畑に向き合い、信念に沿ったワイン造りをしています。わたしは、以前から、真剣で魂のこもった彼らのシャンパーニュのファンなのです。
ドサージュ(糖分調整)とは、デコルジュマン(滓抜き)のときに糖分を添加することで、最終的なシャンパーニュの味わいを調整する大事な工程。どのくらいの糖分を添加するかによりBrutやExtra Brutなどシャンパーニュのラベル上のカテゴリーが決まります。
今回は、ユレ・フレールの作る、「4 elements」シリーズのムニエ100%のキュヴェとシャルドネ100%のキュヴェ、2種類のドサージュレベルを決めるという任務でした。
試飲は、もちろんブラインドで行われ、糖分のレベル違いの同じワインを4つ試飲し、コメントを言い合い、最適と思われるものを決定します。どのくらいの違いかというと、それぞれ1リットル当たり1.2g、1.7g、2.2g、2.7gの糖分添加で、わずかな差です。
以前にも、何度か生産者とこのような試飲をしたことがあり、またワインの試験勉強をしているときは、残糖レベルを把握する試飲をして練習しました。とはいえ、勉強や体験として取り組むのと、実際世の中に出て皆に楽しまれるシャンパーニュのドサージュを決めるのでは見方も変わります。これは責任重大ではないかと、緊張感のある試飲になりました。
調和なり、バランスなり、ドサージュに何を求めるかは生産者によりますが、フランソワさんは「ワインが持つポテンシャルを引き出したい。甘さ自体は必要なく、ドサージュを感じないくらいがよい」と言います。
造り手たちから以前聞いたことがあり、また私自身の体験からも感じたのが、加える糖分が増えると、必ずしも、より甘く感じるわけではないこと。糖分量が多いほうが酸が引き立つこともあれば、多い量でも調和されていると甘さを感じないことがあるのです。
今回の試飲では、あるワインには甘みやまろやかさが感じられたがやや正確さに欠けるもの、全般にドライ(辛口)だけど余韻に少し甘みが残るもの、逆に余韻がやや短くカットされてしまう印象を受けたもの、ワインがより活き活きとして輝いているものなど、若干の差が生まれていました。
この「4 Elements」シリーズは、一つの畑から造られるシャンパーニュで、試飲の前にその畑も一緒に訪問したのですが、フランソワさんは、こうも言っていました。「畑を知っていると、この畑からできるワインのスタイルに合うドサージュのワインを選ぶ。例えば、石灰質土壌で育つムニエからできる、このワインの場合、焦点があった、真剣なムニエを表現したい。」
このような職人的な造り手にとっては、ドサージュとは、単なる甘辛レベルを決定するだけではなく、ワイン造りの考え方をも表すものなのでしょう。
皆で意見交換して、無事決定し、ホッと一安心。その前の晩(別のワイナリーの醸造家でもある)奥様と試飲したときと同じ選択だったとお聞きしました。その翌日に、決定したドサージュでデコルジュマンをするとのことでした。そのあとワインを休ませてからリリースになるので、皆さんの元に届くのは、少し先になりますね!