Charles Philipponnat社長 @Clos des Goissesの畑
文・写真/島 悠里
シャンパーニュは、大手メゾンのNVキュヴェのように、広範囲からのワインをブレンドして造るものが代表的ですが、より限定されたエリア、例えば単一畑から造るものが、ますます注目を集めています。前者がシャンパーニュの広範囲を描いたものだとするならば、後者は、特定の場所の個性を表しているものと言えます。こうして、多様なシャンパーニュが続々と登場し、様々な切り口での表現が味わえるのもシャンパーニュの魅力の一つだと感じます。
今回は、単一畑キュヴェの先駆者であり代表格の一つである、フィリポナの「クロ・デ・ゴワス(Clos des Goisses)」をご紹介します1935年が最初のヴィンテージのこのキュヴェは、拠点があるマルイユ・シュル・アイ村にフィリポナが単独所有する、同名の畑から造られます。
この畑は、マルヌ川沿いの南向き斜面にあり、植えられているブドウ品種は約7割がピノ・ノワールで、残りがシャルドネ。シャルル・フィリポナ社長の案内で、畑を歩いたことがありますが、上から見下ろすと、かなりの急勾配の斜面で、上り下りにも一苦労でした。
今年、新しい2015年ヴィンテージのクロ・デ・ゴワスがリリースされました。そのお披露目を兼ねて、フィリポナの数珠のラインナップを、東京銀座のミシュラン三つ星レストラン「ロオジエ」で、輸出部長トマ・ジョレズさんの解説のもと試飲しました。
トマ・ジョレズ(Thomas Jorez)さん(右)、ロオジエのオリヴィエ・シェニョン(Olivier Chaignon)シェフ(左)
この畑から生まれるワインは、骨格があり重厚で、長期熟成が期待されるもの。トマさんは、「南向きのため、冷涼な気候の年でも、ブドウが熟して単一年のワインとして成功します。矛盾するようですが、暑い年でも、石灰質土壌の特質からフレッシュさを保ったワインができるのです」と解説します。 2015年は、一言でいうと暑く乾燥した年。その力強いヴィンテージの特徴からか、この年は、クロ・デ・ゴワスとしては初めて100%樽醸造のワインで造られました(前年の2014年は樽醸造62%)。「パワフルな畑からのパワフルな年のワイン」とトマさんが表現するように、熟した桃やプラムの果実にジューシーでボリュームがあり、ロオジエの芸術作品のように美しいお料理と相まって、壮大なスケールのペアリングが完成していました。
もともと冷涼な気候のシャンパーニュでも、近年の気候変動の影響は顕著です。この点を、シャルル・フィリポナさんに聞いたところ、温暖化を見据えて、クロ・デ・ゴワスの畑のなかでも、南東や東向きの箇所を、白ブドウのシャルドネに植え替えているとのこと。将来的には、クロ・デ・ゴワスのブレンドも、シャルドネが増える可能性もあると言います。
シャンパーニュのユニークな単一畑キュヴェとして、またフィリポナが誇るプレステージ・キュヴェとして名高いクロ・デ・ゴワスですが、長期的な視点で、時代に合わせてより良いものへと発展していく姿を垣間見た気がしました。
Clos des Goisses 2015
(※輸入元アルカン作成のテクニカル・シートより)
ピノ・ノワール78%、シャルドネ22%。マロラクティック発酵は行わない。澱熟成8年間。ドサージュ4.25 g/L。
Tasting Note
色:鮮やかに輝くゴールド
香り:スタートから表情豊かなでリッチな香り。エルダーフラワーや野バラなどのフローラルなアロマを感じます。空気に触れると、時間と共にアロマが複雑に変化し、柑橘系のノートと、ほんのりスパイスをまとわせたバニラの香りが広がります。
味わい:エレガントで均整のとれた味わい。よく熟したレモンなどの柑橘系のフルーツや、バレンシアオンレジの風味が感じられます。フィニッシュには、心地良いホワイトピーチのニュアンスが現れ、余韻が長く続きます。
クロ・デ・ゴワスの畑からは4種類(Clos des Goisses、Les Cintres、Justn Rosé、LV)が造られている。畑をご案内いただいたあと、メゾンでフィリポナ社長とこれらをテイスティング。(2023年3月撮影)