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軽井沢「万平ホテル」リニューアルオープン〜クラシックホテルにふたたび出会う日

文・写真/池田美樹

そのホテルに滞在したいがために旅先を決めることがあるだろうか。軽井沢の万平ホテルはつねに私のリストの最上位に入っている場所だ。

2023年の初めに完全に休館し、大規模改修・改築工事をおこなってきたクラシックホテル、万平ホテルが、2024年10月2日にグランドオープンした。この間、全国に散らばっていたかつてのスタッフがほぼ戻っての再開だ。

1894年(明治27年)に創業し、1936年(昭和11年)に建てられたこのホテルのアルプス館は、その外観や和洋折衷の室内で戦前から現在に至るまで著名人を含む多くの人に愛されてきた。2018年(平成30年)には国の登録有形文化財に登録されている。

ロビーには創業当初からある額縁が掲げられている

2024年8月からのソフトオープンに際しては、長年のリピーターから「変わっていなくてよかった」という声が多く聞かれたという。しかし実際は、アルプス館の建物をすべてジャッキアップし、耐震工事を施して元に戻すという大がかりな工事を経ている。

正面の外観に以前から使われている赤い屋根の色は、軽井沢の現在の条例では認められない色だ。しかし2018年に国の登録有形文化財に登録されたこともあって、そのまま使うことが認められたという。

アルプス館と正面玄関。創業当時からホテルの玄関に掲げられている看板もそのまま

客室は全86室。レセプションやメインダイニングの上階に位置するアルプス館、そこに続く愛宕館、さらに奥の碓井館の3館に分かれている。

アルプス館はガラス障子で寝室とリビングエリアを仕切る和洋折衷の間取りで、開業当初からの内装をできるだけ踏襲している。猫足のバスタブや、リビングエリアに設置された伝統工芸品である軽井沢彫の家具など、古くから受け継がれるものが心地良い空気をつくりだす、まさにこのホテルを象徴する館だ。

アルプス館グランドクラシックの部屋

猫足のバスタブがなんとも愛らしい

愛宕館は、このリニューアルに伴い立て替えられた。ホテルの歴史を踏襲しつつもモダンなイメージで、すべての客室の内風呂には塩沢温泉からの天然温泉がしつらえられている。チェックイン後すぐに温泉に入ることができるのは、なんともうれしい仕掛けだ。

碓井館は、最もシンプルでモダンなイメージで、クラシックとスタンダードで部屋からの景色やデザインが異なり、テラス付きの部屋からは自然を肌で感じることができる。

碓井館スタンダードの部屋


宿泊客でなくとも利用できる1階のカフェテラスでは、以前からのメニューで万平ホテルを代表する「伝統のアップルパイ」と、50年前からレシピが変わらない濃厚なロイヤルミルクティーがいただける。これらはジョン・レノンがいつも注文していたことでもよく知られており、彼が家族とともに座った席には今でもファンが座りたいと訪れてくるという。

伝統のアップルパイ1,725円、ロイヤルミルクティー1,495円

カフェテラスのジョン・レノンゆかりの座席。ペットOKの座席もある。9:30〜18:00

メインダイニングルームでは、開業当初からのレシピを再構築したメニューを展開。今回、ディナーでは新たにワインのペアリングメニューも提供され、料理に合わせたワインをソムリエからグラスで選んでもらえるようになった。

メインダイニングルーム。創業時からある格天井の色合いを遺して新たに作り直した

ワインはグランヴァンはもちろん、シャトー メルシャンの「リヴァリス 北信左岸シャルドネ 2018」「鞠子ヴィンヤード オムニス2013」やサントリー フロム ファームの「高山村シャルドネ 2022」「塩尻メルロ 2013」といった信州のワインも多く揃えられており、積極的に合わせていきたいという。

メインダイニングルームに隣接するバーでは、ウォッカベースの「霧の軽井沢」、ジンベースの「軽井沢の夕焼け」といったシグネチャーカクテルを初め、ホテルの130周年を記念した赤白のワインがグラスでもいただける。ここももちろん、宿泊客でなくとも利用可能だ。

1981年に入社し、ベルボーイから始めて万平ホテルで40年以上のキャリアを積み重ねてきたという支配人の西川眞司氏は「創業時からの理念である『おもてなしは心なり、ホテルは人なり』という気持ちで、古くからのお客様も新たなお客様もお迎えしたい」と話す。

万平ホテルに「ふたたび会う」ために、軽井沢に出かけてみるのはどうだろうか。その際はたっぷりと時間を取り、ただただ、滞在を楽しむことをおすすめしたい。

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池田美樹

エディター。仏シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ叙任。出版社社員時代の1990年代、ワイン特集の担当になったことをきっかけに、ワインをはじめとする酒と食を巡る文化に造詣を深める。世界40か国を旅し、世界一周クルーズも経験。最近では日本の良さを再発見することがライフワーク。作家としての別名・如月サラでWhynot?マガジンにて『如月サラの葡萄酒奇譚』連載中。

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