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アメリカンウイスキー「ミクターズ」体験記〜もしウイスキーにあまりなじみがないのなら

取材・文・写真/池田 美樹

ウイスキーはお好きだろうか。アイリッシュが最高という人も、ジャパニーズウイスキーが熱いよねという人も、ストレートが基本でしょという人も、ロックがいいという人も、ウイスキーベースのトラディショナルカクテルが好きという人もいると思う。

しかし、もしウイスキーにあまりなじみがないのなら、それはラッキーなことかもしれない。どんなウイスキーが好きか。どんな飲み方が好きか。そういう判断軸をこれからつくることができるからだ。

私がまさにそうだった。今回、さまざまな味わいを楽しむ幸運に恵まれた、プレミアム アメリカンウイスキー「ミクターズ(Michter’s)」の体験をシェアしたい。

フォーシーズンズホテル東京大手町のVIRTÙ(ヴェルテュ)は、2023年の「アジアのベストバー50」で第20位に初登場したことでも知られるバーだ。2024年には、「アジアのベストバー50」のメンバーにより選出され、「アジアのベストバー50」の授賞式に先立って発表される、最もホスピタリティ溢れる体験を提供したバーに送られる特別賞「ミクターズ・アート・オブ・ホスピタリティ賞」を受賞している。

VIRTÙでは通年、「ミクターズUS★1 バーボンウイスキー」を
使った2種類のカクテルがオンメニューしている

このバーのシグネチャーカクテルとしてオンメニューしているうちの2つが「シグネチャーハイボール」と「スモークド梅ファッションド」。どちらもバニラやキャラメルが香る「ミクターズUS★1 バーボンウイスキー」で漬け込んだ自家製梅酒を使用している。

自家製梅酒、檜ビターで作る「スモークド梅ファッションド」

「スモークド梅ファッションド」は、文字通りスモークをカクテルグラスの中に閉じ込める。鼻先にスモークがふわりと香り、一口含むと梅の酸味を感じたのちウイスキーのまろやかな甘みがたっぷりと広がり、いっぱいに広がって、 飲み干すとビターな後味が残る。

ミクターズと言っても、ウイスキーになじみがなければ聞き慣れない人もいるだろう。現在、アメリカ合衆国ケンタッキー州ルイビルに本社と蒸溜所を構えるミクターズは、アメリカ最古のウイスキーブランドのひとつだ。そのルーツは1753年にペンシルベニア州で始まった蒸溜所にまでさかのぼる。

「ミクターズ」というブランド名が登場するのは20世紀初頭。その後、1980年代に時代の変化により一度閉鎖されたが、1990年代に見事な復活を遂げている。 今回、マスターディスティラー(蒸溜責任者)のダン・マッキー氏が初来日し、レクチャーを受ける機会があった。「Cost be Damned!(コストは度外視)」をモットーにしているというマッキー氏いわく、徹底的にこだわっているのが、少量生産で高い品質を保つこと。発酵の精度と風味の一貫性を保つサワーマッシュ製法、熟成中に複雑な風味をもたらすトーストしてチャーした樽の使用など、手間のかかる細やかな作り方を採用し、守り続けている。

ミクターズの代表的なラインナップ

ミクターズの代表的なラインナップには「ミクターズUS★1 バーボンウイスキー」、「ミクターズUS★1 ライウイスキー」に加え、サワーマッシュ製法でつくられるバーボンウイスキーとライウイスキーの原酒をヴァッティング(ブレンド)した「ミクターズUS★1 サワーマッシュウイスキー」、モルト、コーン、ライをバランスよく使用し、バーボンバレルで5年以上熟成させた「ミクターズUS★1 アメリカンウイスキー」がある。 マッキー氏による歴史と製法のレクチャーを聞いて理解を深めたのち、代表的なウイスキーに加え、10年間という長期熟成させた「ミクターズ ライウイスキー 10年」と「ミクターズ バーボンウイスキー 10年」を味わってみた。香りや味わいの違いを知るには、飲み比べてみるに限る。

飲み比べてみるとそれぞれの香りや味わいの違いがこんなにもあるのかと驚く

この日は、それぞれのウイスキーに合わせた料理も提案された。丁寧につくられたプレミアムウイスキーはバーでじっくり一杯、というイメージしか持っていなかったので、料理とのペアリングの提案は新鮮で、食中酒としての可能性も感じさせた。

「ミクターズUS★1 ライウイスキー」を含みながらクランチチョコレートのデザートをいただいていると(最高の組み合わせだった!)、マッキー氏が、皆にスペシャルなお知らせがある、といたずらっぽい笑みを浮かべて立ち上がった。

ミクターズ蒸留所マスターディスティラーのダン・マッキー氏

うやうやしく開かれた箱の中に入っていたのは2023年に発売された「ミクターズ セレブレーション サワーマッシュ ウイスキー」。異なる年代のウイスキーをブレンドした非常に希少なもので、これで4回目、2019年以来のリリースとなるものだ。世界で328本のみリリースされたとても希少な商品。日本のみなさんがもっとミクターズを知って、楽しんでくださるように一緒にお祝いしましょうと封切りされ、出席者にふるまわれ、場は祝祭の空間となった。

ミクターズ セレブレーション サワーマッシュ ウイスキーはバーボンウイスキー3樽とライウイスキー4樽をブレンドし、わずか328本のリリース

ミクターズは、英国のDrinks International社が主催する世界中のトップバーテンダーたちが選ぶ最も好きなブランド「Bartenders’ Choice」2024年の第1位に輝いている。これは、バーテンダーたちが実際に好み、使用しているブランドを評価するランキングで、顧客に最高のカクテルを提供するための優れたウイスキーだとカウンターの内側から評価されたことになる。

ブランドセミナーが開かれたフォーシーズンズホテル東京大手町39階のソーシャルルーム

これまでウイスキーにあまりなじみを持てずに過ごしてきてしまったことを後悔し、すぐに、いや、そうではないと思い直した。

これからウイスキーを知っていけばよいのだ。その事始めがミクターズだったのはとても幸運だったのではないだろうか。『もし僕らの言葉がウイスキーであったなら』というエッセイで、村上春樹は、複雑で深みのある風味や、味わう瞬間が心に響くウイスキーのことを「言葉」なのだと言っている。 歴史、文化、作り手の思い、職人たちの技術。それらが凝縮するウイスキーの言葉を、これから受け取っていきたい。そう考えながら、私はグラスを掲げた。

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池田美樹

エディター。仏シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ叙任。出版社社員時代の1990年代、ワイン特集の担当になったことをきっかけに、ワインをはじめとする酒と食を巡る文化に造詣を深める。世界40か国を旅し、世界一周クルーズも経験。最近では日本の良さを再発見することがライフワーク。作家としての別名・如月サラでWhynot?マガジンにて『如月サラの葡萄酒奇譚』連載中。

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