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世界のワイン銘醸地のなかでもチリの「ヴィニェド・チャドウィック」が飲むべきワインと言われる理由

文/山田 靖

チリのファインワインのベスト・オブ・ベストに「ヴィニェド・チャドウィック」というワインがある。生産量が少ない年は5,000本、多い年でも15,000本(この本数は少ないのですよ)という希少なワイン。ワインラヴァーの間では「いまさら何の説明もいらない垂涎のワイン」だが、少しワインに距離がある(ワインは飲むけど、銘柄には疎い)と残念ながら誰もが知るワインというわけではない。

今回、「ヴィニェド・チャドウィック」のアジア市場担当のサブリナ・トゥミノさんとアジア・パシフィック地域ディレクターのジュリアン・プーティエさんが新ヴィンテージ2022年をもって来日し、お話を聞きながら試飲する機会に恵まれた。その試飲の場では「2011」「2010」「2009」ヴィンテージを加えた4ヴィンテージの比較試飲という貴重な体することが機会をいただいた。それぞれの個性はそれぞれ際だっていたが、皆さんに飲んでいただきたいゆえに、改めて「ヴィニェド・チャドウィック」の魅力を書き残しておこうと思う。個人的にビギナーにはワインはとば口に近いワインから飲んでみることを勧める。しかし、チリワインを堪能するのであれば、エントリーレベルのワインからではなく、ぜひ最高峰の1本から飲んでみてほしい。なぜならば、比べるべきはブルゴーニュであり、ボルドーだからだ。

アジア市場担当のサブリナ・トゥミノさん(右)と
アジア・パシフィック地域ディレクターのジュリアン・プーティエさん(左)


このWhy not?マガジンでも何度か記事でも書いているが、「ヴィニェド・チャドウィック」を飲むとチリワイン魅力の深淵をのぞき込むことができる素晴らしいワインであることをまず断言しよう。どの素晴らしいワインにもドラマはつきものだ。しかし、チャドウィックにはドラマに行き着く前に歴史を知ることから始めたい。ヴィニェド・チャドウィック」の出自をしばし追ってみたい。

チャドウィックのファミリー・ストーリー

「ヴィニェド・チャドウィック」は、エデュアルド・チャドウィックが1992年に立ち上げたワイナリーから造られたワイン。そのチャドウィック家はイングランド王国時代(AD9~AD.10年)には家名が記され、祖国は英国である。その後、その家系からはさまざまな分野で歴史を造る著名な人材が輩出されている。エデュアルド・チャドウィックの祖先は1820年にチリに渡る。彼の父・アルフォンソ・チャドウィックが1942年“マイポ・ヴァレーのプエンテ・アルト”に300hの土地を購入する(後述するが、プエンテ・アルトはブドウ造りでは最高の土壌と言われているところ。購入当時でもポテンシャルは認められていたがまだ確立される前だった)したことからワインのストーリーが始まることになる。

アルフォンソは情熱を持ってワイン造りをする一方、スポーツの「ポロ」選手としても傑出し長年にわたりチリのナショナルチームのキャプテンとしても活躍。まさに不世出の選手だ。その情熱は購入したマイポ・ヴァレーの土地に自分用のポロ競技場を建設したほどだ。

そして、時代は激動していく。1960年に入るとチリの軍事政権による政治的変動が起こり、農地改革が進められた。チャドウィック家はポロ競技場等25hの土地を引き継いだが、当時アルフォンソはポロ競技からは引退していたこともあり、また、そのテロワールの潜在能力を認めていたことから、ポロ競技場をブドウ畑に変えることを息子のエデュアルドに許したのだ。1992年、15hの土地にカベルネ・ソーヴィニヨンが植えられ「ヴィニェド・チャドウィックのワイン造りがスタートした。

ボルドー5大シャトーを凌駕し堂々1位、2004年衝撃のベルリン・テイスティング

現実は、いわゆる「ドラマ(作り事)」を軽く超えていく出来事が起こるといわれるが、まさに「ヴィニェド・チャドウィック」というワインにはそれが起きた。

2004年にベルリンで開催されたテイスティング大会(ベルリン・テイスティング)で、ボルドー5大シャトーやイタリアの銘醸ワイン (ラフィット、ラトゥール、マルゴー、ソライア) と、チャドウィックをはじめとするチリのプレミアムワインを並べてブラインドで試飲した結果、ナンバーワンに選ばれたのはチャドウィック。審査した面々は、旧世界のワインに精通するイギリス人のワイン評論家やドイツ人のトップ・ソムリエであったにもかかわらず、彼らはボルドーのシャトー物より高い評価を、同じカベルネ系であるチリのチャドウィックに与えたのだった。衝撃的な歴史的快挙だ。ではそのワインが生まれた土地をみてみよう。

マイポ・ヴァレーのプエンテ・アルトという奇跡のテロワール

15hという土地の広さは東京ドームに換算すると3.3個分。どちらかといと大きなほうではない。しかし、場所はマイポ・ヴァレーのプエンテ・アルト。アンデス山脈の麓、標高650メートルのマイポ川北岸に位置するプエンテ・アルト。アンデスの高山が涼しい風をもたらし、昼夜の寒暖差は20度ほど。土壌はマイポ川が運んできた石や砂が主で、水はけが良好。ブドウの成熟度、濃縮度に良い影響を与える。アンデスの高山が涼しい風をもたらし、豊かな酸とゆっくり凝縮していく成熟を完成させ、カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に理想的な条件が揃っている。
チリの中でも世界的銘醸地と言われるワインの「プロミスト・ランド」から造られる「ヴィニェド・チャドウィック」は、チリのワインのなかで最も多くの受賞歴のあるワインなのだ。

2014年にワイン評論家ジェームス・サックリングが100点満点をチリワインで初獲得。
※その後2017年、2021年ヴィンテージが100点を獲得。
2021年100点満点を6名の評論家より獲得。俗に600点満点ワインと言うのだとか。
2021年にはロバート・パーカーのワイン・アドヴォケートで100点を獲得。
と、その偉業を語る枚挙にいとまが無い。

特に2014年は霜害でワインのできは深刻にとらえられていたが、出来たワインは5,000本、それが100点を獲得したとは、これまたドラマである。

ヴィニェド・チャドウィック 2022ヴィンテージ

2022年は涼しく乾燥した気候に恵まれ、降雨量も少なく、春は暖かく夏は涼しく、ブドウが熟すことができたという。平均気温は2011年からの統計比較では2.2%低い17.7℃。マイポ・ヴァレーの最高レベルを表現した、エレガントなワインができあがった。2021年ヴィンテージに負けない素晴らしいワインだ。
個人的にテイスティングした感想は、2022年ヴィンテージはここから5年6年と熟成させてもさらに美味しくなるポテンシャルはもちろんあるが、若くして飲んでも素晴らしかった。飲む前に居住まいを正して向き合いたくなるボトルからの圧(?)。それでいて、ワイン単体だけで楽しむのではなく、ペアリングしてもいい。カベルネ・ソーヴィニヨンだから、「肉」、なんて野暮なことをいわせない懐の広さがある。このテイスティングでは中国料理とのペアリングだったが、「海老」や「真鯛」にも激しく共鳴していた。

「ヴィニェド・チャドウィック」は、マイポ・ヴァレーにおいて、他のワイナリーがだめなときも素晴らしいワインが出来るという。特に2022年ヴィンテージはそれが顕著だったらしい。それゆえ「2022年はワインメイカーの手によるヴィンテージ、地域差のあるヴィンテージ」とも言えるらしい。

そして2022年から新しいテクニカル・ディレクター エミリー・フォルコナーが参加し、現テクニカル・ディレクターのフランシスコ・ベッティグと次代の「ヴィニェド・チャドウィック」造りが始まっている。


最後に、不粋を承知で付け足す。この「ヴィニェド・チャドウィック」の価格は50,000円以下である。同じようなポテンシャルのワインをフランスやイタリアの銘醸ワインならば何倍かはするだろう。ワイン前史のファミリー・ストーリーがあり、ワインが生まれてからのドラマもある、それが人びとを魅了し、飲むとその人を一段階格上げする体験をもたらしてくれるワイン、それが「ヴィニェド・チャドウィック 2022」なのだ。
産地/チリ、マイポ・ヴァレー、D.O.プエンテ・アルト
品種/カベルネ・ソーヴィニヨン96%、プティ・ヴェルド4%
出荷開始/2024年9月

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山田_yamada 靖_yasushi

Why not?マガジン編集長。長くオールドメディアで編集を担当して得たものをデジタルメディアで形造りたい。座右の銘は「立って半畳、寝て一畳」。猫馬鹿。年一でインドネシア・バリのバカンスはもはやルーティン。

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