お酒を自由に楽しみ、セレンディピティな出会いを

WINE

ポムロールの真髄を映すワイン――クロ・デュ・クロシェの魅力

取材・文/山田 靖 ボトル画像/Mayu Ono

3月某日、フランス、ポムロールから「クロ・デュ・クロシェ(Clos du Clocher)」の現当主ジャン・バティスト・ブロット(Jean-Baptiste Bourotte)氏が来日し、話を聞くことができた。ジャン・バティスト・ブロットはとても気さくで、フランクにお話をされる好人物であった。

フランス・ボルドー地方の右岸に位置するポムロールは、わずか約800ヘクタールの小規模なアペラシオンでありながら、世界中のワイン愛好家から熱い注目を集める名醸地。シャトー・ペトリュスをはじめとする超一流シャトーが点在するこの地は、ボルドーの中でも特にメルロー種のポテンシャルを最大限に引き出すテロワールとして知られている。

ポムロールの魅力の核となるのが、その特異な土壌。ポムロールの多くの畑は、鉄分を多く含む青粘土と砂利質の層から成り、これがメルローに深みと豊かなアロマ、そして長期熟成に耐える構造を与えていると言われており、とりわけ、標高30〜40メートルのわずかな高台に広がる中心部の畑は、他の地区とは一線を画す高品質なブドウを生み出すことで知られている。ポムロールのテロワールは、ボルドーの他の地区と比較して非常に繊細かつ限定的であり、その結果として、ワインも希少性が高く、限定的な生産量ながら強い存在感を放っているのだ。


このポムロールの中心地に、位置するのが、「クロ・デュ・クロシェ(Clos du Clocher)」。その名にある「クロ(Clos)」とは、伝統的に囲い地を意味し、限られた区画の中で丁寧に栽培されたブドウがワインの品質を裏打ちしている。
クロ・デュ・クロシェは1924年にジャン・バティスト・オーディ氏によって設立され、その後の約100年にわたって家族経営の精神を貫いてきた。現在は、今回来日した彼の曾孫にあたるジャン・バティスト・ブロット(Jean-Baptiste Bourotte)氏がその運営を担っている。ブロット氏は、家族の伝統を尊重しつつ、現代的な醸造技術や有機農法の導入といった革新的アプローチも積極的に取り入れており、ポムロールの新世代を象徴する造り手として注目されている人物でもある。

ジャン・バティスト・ブロット氏

クロ・デュ・クロシェの畑は、鉄分豊富な粘土と砂利の絶妙なバランスをもつ土壌の上に広がっており、メルロー(約70%)とカベルネ・フラン(約30%)が栽培されている。樹齢は平均25年、一部の古木は60年以上に達し、栽培・収穫は全て手作業で行われ、選果は極めて厳格。醸造においては果実のポテンシャルを最大限に活かすよう、丁寧な抽出と熟成が行われている。新樽比率はヴィンテージによって異なるものの、果実味と樽香がバランスよく融合するよう設計されているのである。
畑の総面積は4.3haから18,000本ほどのワインが造られており、本来このくらいの面積であれば25,000本くらいは造られるが、「植密度は1ヘクタールあたり7,200本で、年間生産量は18,000本から22,000本に相当します。特にカベルネ・フランの場合、木が疲弊するのを防ぐために剪定は厳格に行われ(生理的バランス)、良好な糖度を確保し、青臭い香りを避けるためこの収量におさめているという意図があるのです」と語ってくれた。また、最近の試みとしては仕立を低くしているという。そうすることによって乾燥した状況下で大きなキャノピー(樹冠)を維持することができ、ブドウの木が疲弊するのを防ぐためとのこと(近年、乾燥した状況がかなり多くなっているという)。また、アルコール度数が上がらないように(あるいは下がるように)わずかに役立つ可能性もあるのだとか。また葉の表面積を増やすことで、隣接するブドウの木を日光から保護する日陰を作っているそうだ。どちらにしても、1ヘクタールあたりの植密度と木の高さの関係を研究することが重要だとも語ってくれた。


今回試飲させていただいたのは「1998」「2001」「2005」「2010」「2016」の5ヴィンテージ。その味わいは、ポムロールらしいしなやかさと力強さを併せ持つもの。熟したブラックチェリーやプラム、スミレ、そしてカカオのような芳醇なアロマが立ち上り、シルキーなタンニンが長い余韻へと導いてくれる。特にカベルネ・フランの比率が高い年は、より骨格のしっかりした複雑な仕上がりとなり、20年以上の熟成に耐えるポテンシャルを秘めている。
クロ・デュ・クロシェのワインは、生産量が限られているため、ワイン市場においては「知る人ぞ知る逸品」として評価されている。

セミナー主催者からのサプライズは100周年を記念してのバースデーケーキにご満悦のジャン・バティスト・ブロット氏

現当主であるジャン・バティスト・ブロット氏は、ただのワイン生産者ではなく、ポムロール地域全体の品質向上とプロモーションにも貢献している。地域団体「ポムロール・セダクション」や「ボルドー・オキシジェーヌ」にも積極的に参加し、若手生産者の育成や環境保全への意識啓発にも取り組んでいるのだ。2020年には有機農法への移行を本格化し、2024年に最初の認証ヴィンテージを御披露目するなど、自然との共存を重視したワイン造りを推進。ブロット氏のこうした誠実な姿勢と情熱があってここに結実できたのだろう。 クロ・デュ・クロシェは、ポムロールの地が持つテロワールの魅力を真摯に表現するワイナリーだ。そのワインは、飲み手に優雅で包容力のある味わいを提供するとともに、時間をかけて変化を楽しむ熟成の妙も味わわせてくれる。ポムロールの真価を知るうえで、クロ・デュ・クロシェはまさに理想的な一本。静かに、しかし確実に愛好家の心をつかむその味わいは、ポムロールという小さなアペラシオンの大きな魅力を体現している。

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
山田_yamada 靖_yasushi

Why not?マガジン編集長。長くオールドメディアで編集を担当して得たものをデジタルメディアで形造りたい。座右の銘は「立って半畳、寝て一畳」。猫馬鹿。年一でインドネシア・バリのバカンスはもはやルーティン。

  1. ポムロールの真髄を映すワイン――クロ・デュ・クロシェの魅力

  2. 神戸の街とシャンパーニュが織りなす、愛の泡「Les Bulles d’Amour」

  3. あなた好みのペアリングにカスタマイズが魅力の「チャイナブルー」で特別な点心ランチを

RELATED

PAGE TOP