取材・文/山田 靖
アカデミー・デュ・ヴァンで開催された紫貴あき講師のセミナーに参加してみた!
昨年、東京・虎ノ門のW TRANOMONにて、ローヌ地方の代表ワイン「E.GUIGAL」のワイン会をWhy not?マガジン主催で開催したところ、40名の参加募集に対し開始後早々にキャンセル待ちが出るほどの人気だった。そして2月下旬には、アカデミー・デュ・ヴァン主催で、ワイン講師・紫貴あきさんによる「ギガルを通しローヌ主要産地を紐解く」という一般ワインラバー向けセミナーが開催されたのだが、当初は1回のみ開催の予定が募集早々にキャンセル待ちが続出し、48名定員で2回開催するという人気ぶり(2回目は増席し、それでも40名近いキャンセル待ちだったという。これは主催したアカデミー・デュ・ヴァンでも異例の盛況ぶりと驚いていた)だった。



ワインへのリテラシーも高く、ローヌの帝王とも称される「ギガル」をテーマにしたセミナーということもあり、人気が高いだろうことは想定されたが、満席後キャンセル待ちも多く、結果2回に分けての開催という人気だった。「産地から紐解く生産者」のセミナーは実は希少な機会なので、参加された方はある意味ラッキーな体験でもあった。
日本のワインマーケットにおけるフランスワインは「ボルドー」と「ブルゴーニュ」の人気が高く(両産地はブランド化や海外への発信力が上手い)、一方フランスを代表するローヌ地方のワインはフランス国内消費が多く海外での認知は遅れ気味。ゆえに、ボルドーやブルゴーニュに隠れがちだったローヌ地方のワイン。しかし、最近は静かにその味わいの魅力が玄人だけではなく、ワインビギナーにも認識されてきているように思われる。
今回、アカデミー・デュ・ヴァンで開催された「ギガルを通しローヌ主要産地を紐解く」セミナーに参加する機会をいただいた。参加者の熱量を感じ、改めてそう感じた。そのセミナー内容を自分なりに咀嚼し、その魅力を再認識してみたい。
ローヌ地方
ローヌ地方は、その名の通りローヌ川(スイスのレマン湖を起点にフランス南東部を流れ、最終的に地中海へと繋がる)の流域に沿って南北に広がり形成されたワイン産地。フランスの主要ワイン産地の中で、最も南北に長く(約200km)、北はリヨン付近から南はアヴィニョン周辺まで続く長い産地。このローヌ川の存在が、ローヌ地方のワイン生産において重要な役割を果たしてきた。地中海まで繋がると書いたが、ローヌ川は水運の要所として古代より地中海と北ヨーロッパを結ぶ重要な交易路として栄えていた。
ワイン産地としてのスケールをみると、意外と知られていないのがフランスで2番目に大きなAOCワインの産地。ちなみに1位はボルドー、3位はロワール地方。
また、気候の独自性としては「ミストラル」があげられる。この「ミストラル」とはスイスとフランスの国境付近(中央山塊やアルプス山脈)で冷やされた空気が、ローヌ川の谷を通って北から南へ吹き下ろす乾燥した北風のことで、風速はときに100km/h(通常の風は50~90km)以上になることもあり、年間200日以上も吹くと言われている。このミストラルによって気温と湿度も下がり、カビや病害を防ぐ結果となる。もちろん風が強く乾燥するということは枝が折れやすく、ぶどうの樹が傷つきやすいというデメリットもある。
紀元前121年ころ古代ローマ人がローヌ地方の急勾配の産地にぶどう畑を作ったのは、このミストラルのメリットを最大限に活かす知恵からきたことも事実だ。平地は霜害が起こりやすいこともり、平地の開拓は最後になったという。
北ローヌ | 南ローヌ | |
特徴 | 全長72km。 ローヌ全体の栽培面積の4% | 全長80km。 ローヌ全体の栽培面積の96% |
気候と地形 | 半大陸性気候、急斜面が多い | 地中海気候、広大な平地と丘陵地帯 |
主要品種 | シラー、ヴィオニエ、マルサンヌ、ルーサンヌ | グルナッシュ、シラー、ムールヴェードル、サンソー |
原産地呼称 | コート・ロティ、コンドリュー、サン・ジョセフ、クローズ・エルミタージュ、エルミタージュ | シャトーヌフ・デュ・パフ、ジゴンダス、タヴェル |
フランスで最初のAOC認定されたのは……
フランスでワイン法は1935年に制定されたが、1936年AOC認定されたのはローヌ地方の“シャトー・ヌフ・デュ・パプ”で、これがフランス初の認定となった。最初に認定された理由はいくつかあげられる。14世紀のローマ教皇庁がアヴィニョンに移転。そのときに“シャトー・ヌフ・デュ・パプ(教皇の新しい城)”を整備しワイン生産を奨励しワイン産地としての名声を得ていた、1863年ごろのフィロキセラ禍を乗り越え、早い段階で栽培・醸造基準を整え、品質管理にもすでに厳格なルールをしていた、など。そして、すでにローヌ地方のブランド力がこのときにできあがっていたことが伺える。また最初にAOC認定されたことで、リーダー的な存在としての役割もローヌが担っていくこととなる。
そしてもう一つ、ローヌがワイン産地としてブランド力を確立させる複合要素に1956年2月にフランスを襲った歴史的な大寒波がある。マイナス15℃という氷点下が3週間続き、オリーブや他の果物は枯れてしまったが、ぶどうの樹はなんとか生き延びた結果、多くの農家がぶどう栽培に転換したことも、結果的にローヌのワインブランドへの道につながったと言われている。
またローヌの品種といえば、ヨーロッパのワイン産地では「フィロキセラ被害」の前後でさまざまに事情はことなる。現在、ローヌといえば思い浮かべる品種は「シラー」と「グルナッシュ」だろう。しかしフィロキセラ前はムールヴェードルが南ローヌも1/3を占めていたが、被害後全体の5%まで減ってしまい、「シラー」と「グルナッシュ」が主流になったのだ。



ギガル=コート・ロティ!?


ではいよいよ「ギガル」についての話しだ。その設立は想像より新しく第二次世界大戦後の1946年。エティエンヌ・ギガルが第二次大戦で荒廃したローヌ地方の品質を復興させるという目的もあり設立。エティエンヌは14歳からぶどう栽培に従事し生涯で67回の収穫を経験。品質向上に生涯を捧げ、ローヌのワイン造りの伝統を次世代にも伝えた人物だ。
二代目は1961年にワイナリーに加わるマルセル・ギガル(エティエンヌの息子)。しかし、彼がワイナリーに関わった時期から70年代のフランスワインはまさに「ボルドー」と「ブルゴーニュ」の人気が世界を席巻していたとき。ワインの品質は素晴らしくともブランド力では後塵を拝する時期でもあった。例えばコート・ロティでは200hあった畑も70hまで減少していた。そこにマルセルがコート・ロティの品種シラーはタンニン、アロマともしっかりとした芳醇さがあるので、新樽で長期熟成させること、テロワールを語ることが出来るのだからシングルヴィンヤードのワインを造ることを進めた結果、産まれたのが「LaLaLaシリーズ」。そうギガル三銃士と呼ばれる銘品をもって、コート・ロティを世界最高峰のワイン産地として確立させることになったのだ。 その「ギガル三兄弟」あるいは「ギガル三銃士」と呼ばれるのは「ラ・ムーリーヌ」、「ラ・トゥルック」、「ラ・ランドンヌ」は「コート・ロティ」の単一畑から造られており、生産量が少ない上に人気が高く、世界中のワインマニアが争奪戦を繰り広げている。その結果、畑は200hまで復活。ギガルなくしてコート・ロティの復活はあり得なかったと言っても過言ではないだろう。



3つの個性が明確に顕れたワイン。またパーカーポイント100点を獲得するなどその名は轟いているが、生産量が少なく当然のように争奪戦になるワインだ。ただ、ギガルのすごさはコート・ロティだけではなく9つの原産地呼称をカバーし、40を超えるワインラインナップをもっているところなのだ。
AOCコート・デ・ローヌが体現するギガルのワイン哲学
AOCコート・デュ・ローヌはローヌ川全域の広域原産地呼称。一般的に南部のメルロー品種を主体にワイン造りが行われているが、ギガルは北ローヌ生産者でもあり、グルナッシュが主体。「AOCコート・デュ・ローヌというシンプルなAOCでグランヴァンを造る」という哲学を貫く意志であり、ローヌ地方の多様性と伝統を尊重することでローヌ地方全体の魅力を伝えることを目指している現れでもある。また、北部のシラー主体の長期熟成にこだわりをみせるのがギガルの特徴だ。その証左に現行ヴィンテージは2019年。これはあえてバックヴィンテージをだすのではなく、「抜栓してすぐ楽しめる飲み頃」を目指しているからだ。
環境面においては、地球環境へのやさしさに取り組んだぶどう栽培と土壌生態系を尊重している。もちろん、お題目に終わることなく「環境価値重視認証(HVEレベルⅢ)」認証を取得。これはフランス政府が許可する認証取得が難しく、フランス他の産地でもトップクラスのワイナリーが取得している希少な認証。また、自社で樽工房を所有、年間オーダーメイドで約800個の樽(職人が手作業で1日5個)を製造し、品質管理とともに輸送に伴う環境負荷の低減も実現させている。
今回の紫貴あきさんによる「ローヌ地方を知り、ギガルを読み解く」セミナーで、ローヌ地方、ギガルのワイン造りのへの矜持、ぶどう栽培や製造責任への関わり方を知ったことで、知識を深めるだけではなく、美味しいワインはもちろんほかにもたくさんあるが、「なぜギガルを、ローヌのワインをセレクト」するのか!? その理由がハッキリとした。そう「美味しいだけじゃない、その後ろにはドラマがあり、なぜワインを造っているのか」、そのストーリーと彼らに共感できるものがあるからだ。このセミナーを体験し、再びギガルのワイン会を開催したいと熱量はあがった。ぜひ、皆さんもギガルを飲んでみてほしい。個人的なオススメは赤でも白でもなく「コート デュ ローヌ ロゼ (ロゼ)」。フードペアリングはほぼ無敵になんでも合いそうだし、ボトルの加工もオシャレ。

コート デュ ローヌ ロゼ
2020年ヴィンテージからボトルデザインがリニューアルされ、よりスタイリッシュになった。
外観は綺麗なサーモンピンク。味わいじゃドライめなので、食材を選ばないと思います。参考価格は2,600円前後。お値段以上の満足感を保証します。