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WINE

岡田岳樹のアティチュードに溢れた「フォリウム・ヴィンヤード」のソーヴィニヨン・ブランは格別に美味しいというおはなし

文/山田 靖

今年もどうやら猛暑になるようだ。それも昨年並みに蒸し蒸しジメジメ、時に体温を超える外気温、そんなときに飲んでほしい(本音はシーズン関係なく美味しいけど、ことさら暑い夏にはとくに)ワインは「フォリウム・ヴィンヤード」のソーヴィニヨン・ブラン。
ワインの原材料であるブドウは造っている人の顔がほぼ明確になっている農作物だ。もちろん醸造家にのみ光があたることもあるが、「フォリウム・ヴィンヤード」を語るときには栽培兼醸造家の岡田岳樹氏を抜きに話は始まらない。今回、絶対の自信をもってオススメする理由のひとつは、「岡田岳樹」のワインに対する“矜持”がワインに溢れているからであり、美味しいワインであることはもちろん、個性をしっかり持ったワインというところが大きなポイントなんである。

栽培兼醸造家の岡田岳樹氏

まず、「フォリウム・ヴィンヤード」があるニュージーランドのマールボロについて少し知ってみよう。マールボロはワインを造り始めてまだ50年ほど。すごいのは50年足らずでクオリティの高いワイン造りに到達し、世界の銘醸地の仲間入りを果たしていることだ。マールボロといえば言わずもがなのソーヴィニヨン・ブランが代表格である。マールボロがソーヴィニヨン・ブランにどれだけすごいのかは栽培面積からも想像できる。下記はブドウの国際研究機関OIVの2017年の数字だ。主な栽培国はフランス、ニュージーランド、チリ、南アフリカとなっている。

OIV2017年データより

ニュージーランドのブドウ畑の約70%はマールボロにあり、その89%はソーヴィニヨン・ブランが植えられているという。本格的にワイン造りが始まったのは1970年代。前述したがそれから50年で世界の銘醸地の地位を獲得した。もちろんマールボロのソーヴィニヨン・ブランがその始まりだ。味わいは甘いトロピカルフルーツと力強い葉の緑の香りが混在するボリューム感があり、分かりやすく万人に好かれるものとなっている。ただ、マールボロのテロワールを確認すると、似たような条件の土壌や気候はほかにもあるが、1990年代にさまざまな分析等から醸造学が隆盛し、マーケット分析(ニュージーランドの地政学含め)などによって唯一無二のソーヴィニヨン・ブランが造られていった。すこしだけ専門的なことを書くと、本来のソーヴィニヨン・ブランには果汁のなかに存在する化合物「メトキシピラジン」(主にグリーン、分かりやすくいうとピーマン香と呼ばれる、個人的には嫌いな表現だが、猫のおしっことよばれたりもする)が香りを支配するが、マールボロにはもう一つの化合物「チオール」が存在する。これは発酵時の副産物でパッションフルーツやグレープフルーツの香がして、これこそがマールボロらしさと言われている。

「マールボロ」らしさよりも「フォリウム・ヴィンヤード」らしさの追求

さて、前置きがだいぶ長くなってしまった。今回紹介する「フォリウム・ヴィンヤード」である。まずはその栽培兼醸造家の岡田岳樹氏について紹介したい。岡田氏は北海道の某有名大学の農学部卒業後、カリフォルニアでワインの栽培・醸造学を修得。その後、ニュージーランドのマールボロへ。ソーヴィニヨン・ブランをフランスのサンセール地区で造り続けてきた大御所「アンリ・ブルジョワ」が手がけるワイナリー「クロ・アンリ」に6年間務め、その後2010年に「フォリウム・ヴィンヤード」」を設立。ソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールを生育し、美味しいワイン造りをしている。
この書き方だと、さぞ、マールボロらしい美味しいソーヴィニヨン・ブランを造っていると続きそうだが、あにはからんやマールボロのイメージとは違う彼のワインは清涼感のある香り、キリッとした酸がある味わいのソーヴィニヨン・ブランなのだ。マールボロでは醸造学が発展を支えマールボロらしいワインが確立されたため、どのワインも「あっ、これもマールボロね?」という既視感を持ってしまうことが多い。そこに、「フォリウム・ヴィンヤード」としての個性を際立たせたいと言う思いで、岡田氏はブドウ造りにそのソーヴィニヨン・ブラン愛を込めていった。「高品質ワインへの近道は高品質なブドウ造りから」という至極真っ当な見地から、ドライファーミング(畑に人工的に水を供給しないこと=無灌漑)によって、凝縮し完熟したブドウが収穫可能となり、ヴィンテージでの差(年ごとの味の特徴が顕著になる)ができ、また収穫は手摘み(マールボロは機械収穫が多い)をすることで極力醸造での人的関与を少なくするなど、ブドウの個性とフォリウム・ヴィンヤードのテロワールを反映させたワインが造られるというわけだ。


今回、ニュージーランドから帰国した岡田氏にさまざまな話しを伺う機会を得て、彼のある種「飄々としたなかにある強いこだわり」がフォリウム・ヴィンヤードのワインの美味しさを生み出しているのだと思った。マールボロのワインを自分の中で咀嚼して再解釈することで、オリジナリティーのあるワイン造りに邁進している。特に次の一言「僕の中学高校のころ、大ヒットしていた小室哲哉の曲は、何聞いても小室哲哉の音楽なんだけど、でもその彼の曲を聴くと、“あー、これ小室哲哉の曲ダヨネ”とわかることって本当はすごいことですよね。同じように僕はワインでもこの人はこれを造りたいんだろうな、それがたとえバランスが悪かったとしても、この人はこれをやりたいんだろうねっいうワイン、そのマインドはいいんじゃないかと」と語ったことが印象に残った。「個性のあるワイン」ってなにか? 1つの答えを「フォリウム・ヴィンヤード」はワインの言葉で語りかけてくれるだろう。

今回試飲させていただいたワイン左から
「マールボロ ソーヴィニヨン・ブラン 2023」フルーティーさがあり、爽やか。希望小売価格/4,700円(税抜)
「マールボロ ソーヴィニヨン・ブラン・リザーヴ 2019」2023年と比べて凝縮感あり。乾燥した気候の年。ドライファーミングの利点が現れたワインとのこと。希望小売価格/5,800円(税抜)
「マールボロ ソーヴィニヨン・ブラン・リザーヴ 2013」10年以上熟成。ブルゴーニュ好きな方たちにもオススメの柔らかい口当たり。希望小売価格/6,000円(税抜)
「マールボロ ロゼ 2022」ファーストヴィンテージは2020年。ダイレクトプレスしたリッチなロゼ。フードフレンドリーなワイン。希望小売価格/4,200円(税抜)
「マールボロ シャルドネ 2022」2021年からシャルドネにも取り組んでいる。新樽率約20%。酸がきれいで、凝縮感のある力強い仕上がり。希望小売価格/6,500円(税抜)
「マールボロ ピノ・ノワール 2023」きめ細かく、いわゆるシルキーなタンニンが後をひく美味しさ。希望小売価格/5,2000円(税抜)
「マールボロ ピノ・ノワール・リザーヴ 2022」清涼感があり、軽やかで、食事にもいい。希望小売価格/7,000円(税抜)
「マールボロ ソーヴィニヨン・ブラン レイト・ハーヴェスト 2022」甘さの中に心地よい苦味が。補糖補酸をせずノーコントロール。この値段も素晴らしい。希望小売価格/6,800円(税抜)

夏のとにかく暑い夕方、フォリウム・ヴィンヤードの冷えたソーヴィニヨン・ブランを、薄暮を眺めながら飲む(ちなみに岡田氏はたき火をしながら飲むのが好きだそうだ)、そんな飲み方、ちょっと正しい大人の仲間入りなのである。

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山田_yamada 靖_yasushi

Why not?マガジン編集長。長くオールドメディアで編集を担当して得たものをデジタルメディアで形造りたい。座右の銘は「立って半畳、寝て一畳」。猫馬鹿。年一でインドネシア・バリのバカンスはもはやルーティン。

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