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WINE

ドイツワインビギナーへ、飲むべき品種はリースリング、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)、そして泡ならビールじゃないよゼクト(スパークリング)だよ

文/山田 靖

ドイツワイン=甘口という誤解にさようなら


何故か日本はなにかと1990年~80年代に囚われやすい。当時はバブル景気前後の時期で、その頃に起きた様々なことは40年近く取り沙汰され、いまだにその価値観を引きずっている。実はワインにも似たような傾向がある。例えば「ロゼワイン」。今、世界の潮流は白ワインの消費量を抜く人気なのに、日本だけロゼは流行らない。その理由を問うと、ワイン関係者は「80年代に日本を席巻した甘いロゼワインのイメージが残っていて、ワインというよりも甘い飲み物」という印象が強く、食中酒のイメージや大人が飲む飲料のイメージがないとの答え(編集部注:いやいや、その当時飲んでいた人はいまや60代以上、それを知らない消費者の方が多いんだから売る側の工夫不足ではと思うところもある)。同じように、ある種のネガティブな印象をもたれていたのが「ドイツワイン」。

「ドイツワインって甘いんでしょう!?」と言う人がいる。もちろん、甘口のワインが主流の時代があったことは事実だ。特に日本では80年代後半から90年代にドイツワインの「マドンナ」や黒猫のエチケットで有名な「シュヴァルツェ・カッツ」が大流行した。どちらも、このときの味わいは確かに甘口だった。こと日本ではその印象が強く2つのワインがドイツ代表のごとく根付き、その結果「ドイツワインは甘い」というイメージが定着した(編集部注:もちろん、複合的にイメージは作られるが)。しかしいまは2024年だ。「マドンナ」にしても「シュヴァルツェ・カッツ」にしても甘口とひとことで表現できるほど単純なワインではなく、ましてドイツワイン=「甘いワイン」というのはいまだに世界四大文明を信じているような“間違った”知識なのだ。
また、ソムリエ試験経験者やワインの勉強した方なら、フランスやイタリアほど目立たない国でありながら、ドイツのワイン法は覚えるべき知識や規制・規則も多く苦手意識を持ってしまいがちで、ソムリエ試験の勉強に一苦労した方、いっそのこと最初にドイツワインの勉強は諦め放棄して他の国で頑張ろうとした方も多くいるのではないだろうか? 
そう、このように大昔のイメージや知識という敷居が、ドイツワインへの親しみのハードルをあげてしまっている部分もある。しかしながらワインは知識で楽しむものではなく、感覚的に美味しさを楽しめばいいのである。なので、ドイツワインの魅力をまずカンタンに俯瞰して、改めてドイツワインの魅力を探ってみたい。また、8月まで開催している「German Wine Weeks 2024」というドイツワインをさらに楽しめるイベントあるので、ぜひその美味しさに触れてもらいたい。

Why notマガジンの記事でも何度かドイツワインをテーマにしたことがあるので参考までに読んでみてほしい。
知を競うミスコンの勝者、ドイツワインプリンセスが推すブドウ品種は?
食との相性◎、ドイツのリースリングは奥深いというおはなし
熱い夏に飲みたいワイン リースリングなら「シュロス・ヨハニスベルク」のこの1本

地図と数字でみるドイツワイン

ブドウ畑の面積は約10万ha。白ブドウ品種が赤品種よりも倍近い面積。白品種の内訳はいちばん多いのは「リースリング」そのあとに「ミュラー・トゥルガウ」「グラウブルグンダー(ピノ・グリ)」「ヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)」と続く。赤品種は「シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)」「ドルンフェルダー(地場品種)」となっている。

2022年ドイツのブドウ畑面積

地域面積(単位:ha)
ラインヘッセン27,312
ファルツ23,698
バーデン15,727
ヴュルテンベルク11,407
モーゼル8,575
フランケン6,171
ナーエ4,240
6261
合計103,391

ドイツの主な白ワイン品種

ブドウ品種2022年面積(単位:ha)
リースリング24,410
ミュラー・トゥルガウ10,970
グラウブルグンダー8,094
ヴァイスブルグンダー6,181
シャルドネ2,731

ドイツの主な赤ワイン品種

ブドウ品種2022年面積(単位:ha)
シューペートブルグンダー(ピノ・ノワール)11,512
ドルンフェルダー6,812
ポルトギーザー2,295

スパークリングワイン生産量

スパークリングワイン2022年生産量(単位:1,000本)
プロセッコのDOC627,000
ゼクト414,000
シャンパーニュ320,000
カバDO253,000

先日、ドイツワインの魅力を深掘りするのに大変参考になるセミナーが開催されたので、その内容もまとめながらお伝えしたい。ちなみに、セミナー講師はパレスホテル東京 グランド キッチン ソムリエの瀧田昌孝さん。セミナーの冒頭、彼のドイツワインについての説明は、端的にいまのドイツワインを言い当てていた。
「ドイツワインの生産地域は、大きなドイツがある中で左側の下に集中しています。ドイツ全土で造っているというよりは、隣がフランス、そこにかなり集中している場所にドイツワインの生産地はあります。そして、重要なことは世界的な地球温暖化の前までは、ドイツワイン = ワイン生産地域の北限一番北に位置しているところだったので、ワイン(ブドウ)生産者がやってきたことはブドウを完熟させることが全て大事なこと。それはすなわちブドウ糖度を上げることが全てにおいて大切なこと。それゆえにブドウ生産者の方々は寒いところでどうにかしてブドウを完熟させなければいけないということがDNAのようにすりこまれてきました。それが、主に2000 年以降の世界的温暖化の影響がドイツにも顕れました。その気候変動の影響によってドイツワインはここ 10 年20 年で辛口の割合が非常に多くなり、しかも食事に合うワインへとダイナミックに大きく変化しています」

画像・右の瀧田昌孝さん、左はセミナー会場になった銀座・SPICE LAB TOKYO & THE GREY ROOM料理長のテジャス・ソヴァニさん

「リースリング」「ピノ・ノワール」「ゼクト」からいまのドイツワインを楽しむ

ドイツワイン入門、まず飲んでみるなら白ならば「リースリング」。赤は「シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)」。そして特に今のこの猛暑の季節、是非は「ゼクト(=ドイツのスパークリングワイン)」をチョイスしてほしい。

前述の瀧田さんの話にもあるように、ドイツはブドウ産地としては世界でもヨーロッパの北部に位置し、ブドウ産地の北限とも言われ、最も寒冷な地域。近年の温暖化の影響で1960年代と比較して平均気温は2℃以上あがり、クールクライメイト(寒冷地)ワインブームではドイツワインは爽やかな酸味と芳醇な香りのあるワインとして人気が出た。そして、なぜリースリングなのかというと、この品種はドイツが故郷といわれているのだ。また、ドイツの名門ワイナリー「シュロス・ヨハニスベルク」は世界初のリースリングワイナリーでもある。温暖化の恩恵を受ける前はリースリングも甘口が主流だった。しかし、世界の辛口志向などもあり、甘味を抑え、酸味、フルーティさがバランスよく調和した、活き活きとした果実味と芳醇な香りが特徴的なリースリングと、良くも悪くもリースリングの特徴の1つである「ペトロール香」がドイツのリースリングでは抑えられているところもドイツワインの真骨頂だ。肉や魚介と食材もそれほど選ばず、飲み疲れもしない。リースリングを知るにはまずはドイツのリースリングを飲み、その味を基準に世界各地のリースリングを体験していくことをオススメしたい。

地球温暖化のいわば「恩恵」を受けているドイツ。その恩恵は赤ワイン品種にも顕れている。「シュペートブルグンダー(以下:ピノ・ノワール)」だ。ピノ・ノワールは「悪魔が造った品種」とも言われ(ちなみに、対で言われるのは「神が造ったカベルネ・ソーヴィニヨン」)、カベルネ・ソーヴィニヨンは世界各地で造られるが、ピノ・ノワールを育てるには簡単ではなく厳しく環境を選ぶと言われている。14℃~16℃が最適気温で、その温度幅が狭いため、特に気候変動の影響を受けやすい。それゆえドイツの環境は最適とも言われている。2006年にはフランス、アメリカに続いて世界第三位の栽培国にまで成長。そのワインは旧世界のピノ・ノワールスタイル、クラシックでエレガント、フードフレンドリーな味わいだ。そして、ピノ・ノワールのワインは値段も高騰しがちだが、ドイツのピノ・ノワールは品質から値段をみてもかなり手頃ということもオススメするポイントである。リースリング同様、ドイツのピノ・ノワールを味わうことをオススメする。

スパークリングならば「ゼクト」という選択

北限の生産地ゆえに冷涼な大陸性気候のドイツは、スパークリングワインの生産に向いている。なぜならばスパークリングワイン生産のためには、潜在アルコールが低く、高い酸度があるベースワインを使用することが重要であり、ドイツの環境はまさにスパークリングワインにはもってこいなのである。
ドイツでのスパークリングワインの総称は「シャウムヴァイン」。その中で「ゼクト」と呼ばれるもの基準が厳しく、高品質なスパークリングワイン。品種のしばりはなく(ただ、主な品種はリースリングとピノ・ノワールが多い)、製法もタンク方式、瓶内二次発酵(シャンパーニュ製法)などどちらもOK。アルコール度数は10%以上、炭酸ガス圧は3.5気圧以上という規定はある。そして、ゼクトは4カテゴリーに分かれ、そこには厳格な規定がある。以下。
ドイッチャー・ゼクト
ドイツで栽培されたブドウを使用してベースワインからドイツ国内のみで造られる。
ゼクトb.A
指定生産地域がある。ブレンド及び原産地表示にはクヴァリテーツワイン.b.A(ドイツ国内13の生産地いずれか1つで収穫された葡萄のみで造られ、検査で質“クヴァリテーツ”が認められたもの)同等の厳しい規定に従い、品質管理を受けたワイン。
ヴィンツァーゼクト
シャンパーニュ製法で造る。ヴィンテージ、品種、生産者名をラベルに記載、等。
クレマン
シャンパーニュ製法、収穫が手作業で、圧搾する際は除梗せずに全房圧搾。150kgの収穫から得られる果汁は100リットル、残糖は最大50g/ℓなど、厳しい規定がなされている。

なぜ?ゼクトなのか?

世界のスパークリングワイン生産量をみるとプロセッコのDOC、ゼクト、シャンパーニュの順で第二位につけている。そして、味わいはドライなタイプが主流を占める。ドライは主に残糖は17~32g/ℓ。この数字だけみると甘口をイメージされるとも思うが、ゼクトの特徴の1つに「酸が強い」ということが上げられる。それ故、17あったとしても甘酸っぱく感じる。残糖は甘さを引き立たせる役割もあるけれど、酸度が高ければ残糖がある程度多くともバランスがとれ味にまろやかさがでる。スパークリングワインは、果実味が強くてもドライであっても、1本通して食事に合わせるのは食材を選び飲み疲れする場合もあるが、ゼクトはその甘酸っぱさにまろやかさがあるので、フードフレンドリーなのである。ぜひ合わせて飲んでほしい。

最後に瀧田さんにドイツワインビギナーにメッセンジャーをいただいた。
「例えばゼクトは手頃な価格帯とパフォーマンスのよさがありますよね。味わいはシャンパーニュのように緻密に造られています。また、いまドイツ生産者は4世代目の若手生産者が増えていて、環境への配慮やエチケットのアバンギャルドさなど、新しい価値観がありながら、だからといって守るべき伝統は大切にしているので、外したようなファンキーすぎるワインはありません。なので、いまの消費する側の若い世代の方々も自分たちと似たような世代が造り始めているドイツワインをぜひ手に取って、自分好みの1本を見つけてほしいですね。そこでまずは品種で白ならリースリング、赤ならピノ・ノワール。スパークリングワインならばゼクトからスタートしてみてください」。

オスススメのドイツワイン
ソーヴィニャー・グリ 2021/アプトホフ

品種/ソーヴィニャー・グリ
生産地/ドイツ ラインヘッセン
参考価格/3,630円(税込)
輸入元/ヘレンベルガー・ホーフ

リースリング キャビネット2021/ライツ

品種/リースリング
生産地/ドイツ ラインガウ
参考価格/3,630円(税込)
輸入元/EVEWINE

グンダースハイマーシュペートブルグンダーエアステ・ラーゲ 2020/グッツラー

生産地/ドイツ ラインヘッセン
品種/シュペートブルグンダー
参考価格/7,500円(税込)
輸入元/ヴァインベルク

ロゼ クーベーアトロッケン 2022/ドクター・ビュルクリンヴォルフ

品種/シュペートブルグンダー
生産地/ドイツ ファルツ
参考価格/5,720円(税込)
輸入元/ザート・トレーディング

「German Wine Weeks 2024」開催中

そこでオススメのワインフェアのご紹介。8月31日まで、全国80店舗の小売店・飲食店で夏にぴったりなゼクトや高品質な白や赤ワインが買えたり食事とともに楽しめる「German Wine Weeks 2024」開催です。
詳しくは下記サイトへ(外部サイト)

https://jp.winesofgermany.com/german-wine-week/2024/

  • 記事を書いたライター
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山田_yamada 靖_yasushi

Why not?マガジン編集長。長くオールドメディアで編集を担当して得たものをデジタルメディアで形造りたい。座右の銘は「立って半畳、寝て一畳」。猫馬鹿。年一でインドネシア・バリのバカンスはもはやルーティン。

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