文/山田 靖
イタリア、トスカーナ州南西部地方にボルゲリという銘醸地がある。ワインにそれほど詳しくなくとも、「トスカーナ州で造られるワイン」というワードは耳にしたことあるだろう。「スーパー・トスカーナ」や「スーパー・タスカン」も聞いたことのある単語ではなかろうか。そして実は、「ボルゲリ」という産地名も非常に重要なワードなのである。
トスカーナ地方において、内陸に当たるキャンティやモンタルチーノに対しボルゲリは海岸部(実際は丘に囲まれた地域が多い)に位置している。またトスカーナ州ではサンジョベーゼ主体のワインが多いが、ボルゲリで使用される品種はカベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロといったボルドー品種となっている。ワイン法にとらわれること無く、格式にも縛られない、美味しくモダンなスタイルのワインがボルゲリから生まれ、これが「スーパー・タスカン」と言われた所以なのだ。
今回のお話は、イタリアワイン屈指の銘醸地ボルゲリの三大名門の1つ「オルネッライア」についてだ(あとの2つは省略するので、興味のある方はこの記事を読んだ後に皆さん調べてみてくださいね)。
1981年に創立したオルネッライア。フランスの醸造家ミッシェル・ロラン氏を招き、その経験等を最大限注いでボルゲリのテロワールを活かしたワインを世に送り出し、設立から10年程度で「ボルゲリの奇跡」「イタリアの宝石」などと称されスーパー・タスカンとしての圧倒的な存在感を放っている。
また「オルネッライア」といえば、2009年からスタートした「ヴァンデミア・ダルティスタ」と呼ばれるプロジェクトが名高い。これは現代アートとワイン(オルネッライア)が共鳴・響き合って融合し、オルネッライアのヴィンテージごとの個性を表現するもの。毎年世界的に有名なアーティストに依頼して、ワインの特性・ヴィンテージの個性や魅力をアートラベルとして発表している。また、イマジネーションを喚起させる意味でキーワードも登場する。16回目を迎えるオルネッライア2021には「ラ・ジェネロジタ(寛大)」という」言葉がキーワードだ。今回この言葉をモチーフにラベルを創作したのは、世界的に活躍する現代芸術家マリネッラ・セナトーレ。
セナトーレは、作品を生み出すにあたりオルネッライア2021 のキーワード、「ラ・ジェネロジタ」を彼女独自の世界観・芸術観で解釈。彼女にとっての普遍的な言語に変換し作品に昇華した。ネオンによる彫像で造ったサルマナザール・ボトル(9 リットル)は生産本数が1本、つまり世界に1本のみのサルマナザールの彫像だ。これに10本のアンペリアルのラベル、100本のダブルマグナム、他750ml のレギュラーボトルで、コラージュとイルミネーションによる芸術作品が完成した。
女性現代芸術家、マリネッラ・セナトーレ
セナトーレは、 「私はオルネッライアを訪れ、注意深く観察し分析しました。この地から見下ろす地中海、潮風、天空の星をはじめ、大自然の要素から生まれるエネルギーは、ここで働く人々の情熱とパワーと一体化し、自然と人間の深い関係をあらためて認識できました。これは、人間の力強さそのもの。“ラ・ジェネロジタ”のコンセプトは、芸術の軸である“癒しと恵み”の視点を通して解釈。癒しと恵みには“人々の手”が欠かせません。極上のワインを造るため日夜働く人々の手をコラージュに取り入れてラベルをデザイン。人々の手は、肖像画であり、同時に感情も表しています。また、「ダンス」も重要なモチーフです。村人全員で収穫祭を祝う様子を描き、この作品のために作曲した楽譜と踊る人々を通して、古代から引き継がれている人間の動きで“ダンス(踊り)”を表現したいと考えました。」とコメントしている。
サルマナザール(9 リットル)用に制作した光の彫像は、ワインに熱の影響を与えないよう最先端のコールドネオンを使い、環境への配慮から水銀を含んでいないという。
世界に1本のサルマナザールと、110 本の大型ボトルの一部は、 サザビーズにより、2024年5月22日から6月5日に開催予定のオンラインオークションにて販売される。このオンラインオークションは6年連続して開催されており、収益金の全額はソロモン・R・グッゲンハイム財団に寄贈し、視覚が不自由な人が五感を駆使して芸術作品を鑑賞する「マインズ・アイ」プログラムの支援に使われるとのこと。
なおオルネッライア2021は4月1日に発売されている。 2021年、冬は温かく雨に恵まれたため畑の土中に十分な水分が溜まった。そして高温で降水のない夏期において、ブドウにはこれが貴重な水源となった。この「畑の土壌の『寛大さ』と職人気質に溢れた栽培チームの『寛大さ』により、健全で上質なブドウを収穫でき、長期熟成に耐えるワインに仕上がったとのこと。そしてこの素晴らしい土壌に敬意を表し、2021年ヴィンテージの特徴を表すキーワードとして、『ラ・ジェネロシタ(寛大)』が選ばれたというわけだ。