「ワイン」を選ぶとき、ボトルの裏側を覗いてみよう
今回、チョイスしたワインのお話の前に。
「今日はワインでも飲みたいなぁ!」 さてどんなワインにしようか?あなたはどんな基準で選ぶだろう? ここはワインの知識や経験といったリテラシーの高低は考えずに想像してみると。「酒販店の店員に相談する」「肉を焼くから赤ワイン」「少しでも名前を知っているものを選ぶ」「エチケットが印象的なものをジャケ買いする」……etc。今回おすすめのワインを紹介するにあたり、「バックラベルを見て」選ぶということを最初に話してみたい。
インポーター(ワイン輸入会社)は「セレクトショップ」でもある
このワインに限らず、日本で流通している海外産ワインの多くは「インポーター(輸入代理店)」が輸入・販売している。
海外の地でブドウを育てワイン造りをし、さらに販売している会社もあるが、多くはインポーターが各地のワイナリーで造られたワインをそれぞれの独自の職人的なセンスでワインの目利きをし、市場調査をしたうえで現地ワイナリーと契約して、日本市場で販売する。
ファッションにも興味のある方ならばセレクトショップの「ESTNATION」「BEAMS」「UNITED ARROWS」を想像してもらうと分かりやすいだろう。こういったセレクトショップでは海外のさまざまなブランドと独占契約を結んだり、バイヤーなりの目利きで日本市場ではこの商品はこの方向でセールスしようと戦略をたてたり、時にはバイヤーの感覚をプラスした「コラボ商品」を造ることもある。これワイン業界でも同じことがいえる。現地のワインについて日本ではこういう売り方をした方が良いなど提案をする場合もあれば、ピンポイントにコラボして商品開発する場合もある。重要なのはどんなワインがその「インポーターの目線・膚感・味覚」に「びびっと」くるかである。セレクトショップにおける各人の好みは、「自分の感覚」と「そのお店のセレクトの感覚」が合っているかどうかだろう。ワインにもきっと同じことがいえる。あるいはその感覚が近いならば、フランスワインやイタリアワイン、南アフリカのワインだろうがどのワインにするか迷ったときの判断材料になるんじゃないだろうか?
そしてそのインポーター名はバックラベルに表示されている。
自分が飲んで「美味しかった」と思ったらワイン名を覚えることも必要だが、バックラベルに記されている「インポーター」を記憶にとどめておこう。もしかすると、あなたが美味しいと思う感覚と、その会社の感覚は似ているのかもしれない。酒販店に並んでいるのは飲んだことの無いワインがほとんどだ。いくつか候補として絞り込むも決定打がない時などに、バックラベルに記されている「インポーター名」を信じて選ぶ。筆者は、これは意外と外れない判断材料だと確信している。
さて、話を今回紹介するワインに戻そう。フランス南部・ラングドッグ・ルーションで造られている「ロシュ・マゼ」というブランドの赤ワインで、ボトルのエチケットを見る限りではフランスワインらしからぬデザインである。一見するとビールの年末商戦に登場するような「来年の干支ラベルワイン」だからオススメなんだ、と思った方は残念、早合点である。これは「リミテッド・エディション」ではあるが、ロシュ・マゼ本国でラベルデザインをして全世界に商品として送り出した「ロシュ・マゼ サン・シニアン リミテッド・エディション」なのである。
ペアリングを簡単に提案することは難しい
「ロシュ・マゼ サン・シニアン リミテッド・エディション」のバックラベルをみると、輸入販売しているのは「国分グループ本社(以下:国分)」と記されている。国分の創業は1712年と300年続く、日本の食品から飲料まで扱う卸・流通会社であり、卸だけではなく独自輸入も自社ブランド商品も手がけている、日本の老舗中の老舗企業である。
この会社では、ワイン選びのポイントの1つに「食卓にワインを」というコンセプトを掲げている。これまで「ワインを飲んだことがなく、ペアリングを知らない人たち」にこそワインを提案してきた。2012年に「寿司ワイン」を、2013年には「お好み焼ワイン」をスペインのワイナリーと共同開発して発売している。単なる「おもしろ企画」ではなく、ワインのプロが集まり「寿司」「お好み焼」の構成要素を照らし合わせながら、ブドウの品種特性や香、ファーストアタック、糖度などを精査して各ワインを完成させている。ワインを徹底的に科学し、市場ニーズをリサーチして商品化しているのである。
そしてもう一つ大事にしているのは「難しいワイン選びを、楽しい買い物に」という発想だ。
ワインが日本の人々にとって手を出しにくくハードルが上がってしまうことの弊害に、「とかく難しく語ってしまう」ことがあげられる。業界人やハードユーザーが難しく語り合うのは共同言語があるのだろうからそれは否定しないが、一般的にはそれは敬遠されるだけだ。「簡単で楽しい買い物」にならなくては広がらない。
この「ロシュ・マゼ サン・シニアン リミテッド・エディション」は、先にも書いたように生産国のフランスが造り、エチケットのデザインもしている。だからこそ、日本ではどんなシチュエーションで飲んでもらうと盛り上がってくれるかを「楽しく提案」しなければならない。例えば隣国の中国なら「龍」は縁起のよいアイコンだから、それだけで売れるかもしれないが、日本はそう簡単ではない。ただ日本市場ではもともと「ロシュ・マゼ」というブランド自体、各地の酒販店・スーパー・コンビニエンスストアで販売され、「日本国内販売No1のフランスワインブランド※1」と認知度は高い。フランス南部・ラングドッグ・ルーションのIGPペイ・ドックのワインヴァラエタルワインとしてもメジャーだ。今回のワインはIGPペイ・ドックではなく「AOCサン・シニアン」だが、ラングドック・ルーション地方で最も古いワイン生産の歴史を持っている山岳地帯麓にあるサン・シニアンは、ボルドーなどに比べてAOC規制が緩いこともあり自由な発想を求める優秀な醸造家たちがこの地に集まってきた。その結果、サン・シニアンを含めたラングドック・ルーション地方全体の技術が向上し、今ではフランスワインの実に3~4割ほどの生産産地に成長している。
この地方のワインは単一品種ではなく、カリニヤン、シラー、グルナッシュ、ムールヴェードル、サンソーなどがセパージュされているのも特徴。サン・シニアンの赤ワインはさまざまな品種をブレンドしてつくられ、アルコール度が高く力のある味わいが特徴で優雅さと力強さを併せ持っている。
※1「2022年1~12月 KSP-POS」を基に国分で集計
中国料理にサン・シアンを合わせてほしい
「ロシュ・マゼ サン・シニアン リミテッド・エディション」にはこのような背景があり、味わいもAOCサン・シニアンのプレミアムレンジの赤ワインとして自信をもって完成されたワインである。「牛肉のすき焼き」や「唐揚げ」などの食事にも合うだろうが、国分は一般の消費者に「難しくなく、楽しく飲んでもらう」ことに、さらにもう一歩踏み込んだ提案を付け加えた。それは「中国料理にもどうぞ」だ。
これまでは中国料理というと脂との調和を考えてスパークリングワインやロゼなどが想像しやすかったが、「ロシュ・マゼ サン・シニアン リミテッド・エディション」を試してみると確かに黒酢や甜麺醤やオイスターソースを使った料理、鶏や肉団子の揚げ物、焼き餃子や小籠包等の点心、中国各地の旨味いっぱいの奥深い料理にこの赤ワインはピッタリはまる。自信をもってペアリングしてほしいワインで、もちろんラベルも「龍」と中国料理に誘ってくれている。最近ではお節料理においても中国料理はかなり人気だし、いわゆる「家中華」を楽しむことも多いだろう。そんな中国料理を楽しむ時に、ぜひこのワインで盛り上がってみてはどうだろう。そして、自分の「美味しいセンサー」と波長が合ったなら、次回ワイン選びで迷った時にはワインのバックラベルを確認し、このインポーター名が書いてあるワインを迷わずセレクトしてみてはいかがだろう。
「ロシュ・マゼ サン・シニアン リミテッド・エディション 赤」
フランス/AOC サン・シニアン
品種/シラー、グルナッシュ、ムールヴェードル、カリニャン
希望小売価格/1,700円(税別)
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