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チリを世界のワイン銘醸地にならしめ、その名を轟かせた立役者「セーニャ」の新ヴィンテージ2022登場

文/山田 靖

チリは世界のワイン銘醸地の一つだ。そう認められるようになった契機は2004年にドイツで開催された「ベルリン・テイスティング」だろう。ここで起きた、当時は衝撃といえる出来事によりチリワインの評価は一変した。
2004年にベルリンで開催されたテイスティング大会は、ボルドー5大シャトーやイタリアの銘醸ワイン (ラフィット、ラトゥール、マルゴー、ソライア) とチリのプレミアムワインをブラインドで試飲し、その味わいに順位をつけた。審査したのは、旧世界のワインに精通するイギリス人のワイン評論家やドイツ人のトップ・ソムリエであった。にもかかわらず、第1位と第2位がチリのワインが、トップ10の上位にも4本も入り、彼らはボルドーより高い評価を、同じカベルネ系であるチリのワインに与えたのだった。この出来事の話になると、やはり第1位を獲得したワインにばかり目がいってしまうが、今回はヴィンテージ違いで第2位と第4位と評価されたワイン「セーニャ」にフォーカスしたい。先頃2022年ヴィンテージが御披露目もされた。「セーニャ」とはどのようなワインなのか?

ベルリン・テイスティング 試飲結果

セーニャ 2022

「セーニャ」というワインの誕生はある偉大な二人の男たちの出会いがそのドラマの始まりである。
時は1991年、カリフォルニアの著名なワイン生産者が急速に発展を遂げるチリのワイン産地を視察に訪れた。そしてひとりの若者がそのガイドとなった。その著名なワイン生産者は「ロバート・モンダヴィ」、そのガイドが「エデュアルド・チャドウィック」だ。
ロバート・モンダヴィといえば「高品質なカリフォルニアワイン造りの父」といわれた人物。カリフォルニアでワイン造りを始めた1966年当時、カリフォルニアワインは大衆向けという評価が低い存在だった。そこから、ヨーロッパの先達たちの伝統と技術を最新テクノロジーやマーケティングの専門知識と組み合わせ、1960年代末には低温発酵、ステンレスタンクやフランス産オーク小樽での熟成などを導入して高品質なワインを造りだした。カリフォルニアに多くのワイン醸造技術を広め、カリフォルニアを世界の銘醸地に押し上げた、いわばカリフォルニアワイン中興の祖ともいえる人物。そしてエデュアルド・チャドウィックは、ヴィニェドス・ファミリア・チャドウィックのオーナー、後にワイン誌『デキャンタ―』において「デキャンタ―・マン・オブ・ザ・イヤー 」にも選ばれることになる男だ。
彼ら二人はこの視察の道中に、チリの潜在能力を最大限に発揮し、やがて世界の第一級ワインとして歓迎されるワインを造りたい、というお互いの夢に共鳴し、それが共同事業(ジョイントベンチャー)としてワイン造りがスタートする。ワイン名を「シグナル」や「サイン」を意味する言葉「セーニャ」に決まった。ボルドースタイルをモデルに、アコンカグア・ヴァレーで現在だけではなく将来的にも土地の個性の尊重と畑を保全するためバイオダイナミック農法に基づいて栽培されたブドウからワインは造られている。

エデュアルド・チャドウィック氏

そして4年の歳月ののち、カベルネ・ソーヴィニヨンをベースにカルメネールをブレンドした「セーニャ」のファーストヴィンテージ1995が誕生する。
その9年後、冒頭の「ベルリン・テイスティング」が開催されたのだ。土地の個性を明確に打ち出した「セーニャ」は2001年が2位を、2000年はシャトー マルゴーと同率 4 位を獲得し、まさにチリのグラン・ヴァンとしての存在を確立したわけである。第一位を獲得したヴィニェド・チャドウィックはもちろん、エデュアルド・チャドウィックの造ったワインである。

チャドウィック氏が造るワインに飲む側に大切なのこと、それは「Don’t Think , feel」

それまでのチリワインといえば、「安価」というイメージ。もちろんそれは一般消費者だけでなく、ワインのプロたちすらそんな認識だった。チャドウィック氏にとっては相当な忸怩たる思いであったろう。チリには素晴らしい土壌と恵まれた気候という、突出したワインができる条件が揃っている。それを世界に認識させたい、と考えていた。それが「ベルリン・テイスティング」に行き着き、その後も彼は、常に世界にチリのファインワインを発信続けている。
しかしながら、日本はいまでも「まだ、チリ=安価」というイメージを持っている一般消費者は少なくない。もちろん、他方では残念ながらまだそのような手法で売っているワインがあることも確かだ。だが、よく考えてほしい。同じような売り方は「フランス」「イタリア」でもある話だ。肝心なことは簡単「飲んでアナタがなにを感じたかだ」

一度、ボルドーとチャドウィック氏が造った同じレベル(味)を同時にテイスティングしてみて欲しい、チリのファインワインのレベルの高さに驚くだろう。そして、その2本の価格差にも驚くだろう。その後、あなたはチリワインの信奉者になるに、違いない。

セーニャ 2022

「セーニャ」は伝説の男と伝説をこれから造る男が邂逅したからできたのではなく、相応の試練があり研究を尽くしたゆえ生み出された。アコンカグア・ヴァレーは太平洋から39kmほど内陸部の山岳丘陵地。涼しい海風が吹き込んでくるのでフレシュな酸が収穫期まで保たれる。日照量も得られ、土壌は火山性土壌と砂利。アコンカグア・ヴァレーは「世界でもっとも優れたカベルネ・ソーヴィニヨンを生み出す土地の一つ」と言われている。そこで育つカベルネ・ソ―ヴィニヨンを主体としたボルドースタイルにチリの主要品種であるカルメネールをブレンドして「セーニャ」のファーストヴィンテージは完成した。果実味豊かでエレガント、芳醇なスタイルの素晴らしいワインだったという。現在、セーニャはカベルネ ソーヴィニヨン、カルメネール、マルベック、カベルネ フラン、プティ ヴェルドの 5 種類のボルドー品種から造られ、ブドウ造りを調整しアルコール度数を減らしている。その結果、長期熟成も可能だが、若いうちから楽しめるワインでもある。2022年ヴィンテージは試飲させていただいたが、ミディアムボディで、しっかりとした酸味とシャープなタンニンが口の中に広がり、深みのあるバランスのとれた完成度の高い複雑なワインだった。また、一つ前の2021年ヴィンテージはジェームス・サックリング100点を獲得しいる。

また、2020年にはセカンドラベル「ロカス・デ・セーニャ」をリリース。これは、より多くの消費者に「セーニャ」のスタイルを知って欲しいという思いから造られたワイン。セーニャと同じ高いレベルでの栽培や醸造が行なわれ、ただ、ムールヴェドルやグルナッシュなど品種も使用し、長い熟成を経ずとも楽しめる「セカンド・セーニャ」というポジションだ。販売価格も低めに抑えられている。

品種/カベルネ・ソーヴィニヨン60%、マルベック25%、カルメネール9%、プティ・ヴェルド6%

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山田_yamada 靖_yasushi

Why not?マガジン編集長。長くオールドメディアで編集を担当して得たものをデジタルメディアで形造りたい。座右の銘は「立って半畳、寝て一畳」。猫馬鹿。年一でインドネシア・バリのバカンスはもはやルーティン。

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