ボルドーよりも古くから行われていたワイン造り。
「ボルドーの東側」と、「南西地方」と、「南仏の西」。フランスが新しく地域圏を再編成した結果まとまったオクシタニー地域圏は、ワイン産地として非常にユニークなエリアだ。ボルドーよりも古くからワインを造ってきた土地柄ながら、注目され始めたのはつい最近。古くて新しいオクシタニー、その魅力を強烈にアピールした2人にスポットを当てよう。
取材・文/山本ジョー 記事協力/オクシタニー地方観光局 写真/G.DESCHAMPS – CRTL Occitanie
写真/G.DESCHAMPS – CRTL Occitanie
元ラグビー選手らしい剛腕ぶりがワインにも
元ラグビー選手のワインメーカーが築き上げたシャトー・ド・ロスピタレは、宿泊施設やレストランを伴う観光施設としても充実。
オクシタニーのワインが知られるようになったきっかけのひとつは、ラグビーだ。オクシタニーはラグビーに力を入れている「ラグビーの聖地」とされ、2023年にはラグビーワールドカップも開催。そもそもラグビー熱が日本より圧倒的に高いフランスで、代表選手として活躍したジェラール・ベルトランさんの名はフランス全土に知れ渡っている。そんな彼が、オクシタニーにワイナリーを持つ父親のもとでワイン造りを会得し家業を継承。当然、フランス中が注目するわけで……
ただし彼は、知名度にあぐらをかいて漫然とワインを造るにとどまらず、「オクシタニーを高級ワイン産地に」と全力で取り組んだ。おかげで、ボルドーとブルゴーニュ&ローヌの狭間に位置し、それらの影に甘んじていたオクシタニーが、高級ワインをも産出するエリアとして世間に認知されたのだ。
ベルトランさんの力量を知るための、いいサンプルがある。ロゼワインだ。フランスでは今、白ワインよりロゼワインのほうが消費量は多い。飲まれているロゼのほとんどがカジュアルなタイプながら、ベルトランさんは常に次を見据えている。「ロゼ人気上昇」の次は「ロゼの高級バージョンも受け入れられる」と時流を読み、いち早く高級ロゼ「クロ・デュ・タンブル」をリリースしてみせた。日本では3万円の値がつくロゼだ。なにしろベルトランさんには勝算がある。廉価ワイン産地との固定観念が強かったオクシタニーで高級ワインを造り成功を収めたからには、廉価ワインのイメージが強いロゼでも同じセオリーでイケるはず。実際、国内外で売れ行きは上々だという。
『デキャンタ』『ドリンク・ビジネス』といった名だたる専門誌で高評価を獲得したロゼ。
シラーをはじめとした黒ブドウのほか、ヴィオニエもブレンド。/
オクシタニーでベルトランさんのことを悪く言う人は、皆無。彼は周辺の農家へのフォローが手厚いことでも知られ、自然派に興味がある農家がいると聞けば馳せ参じ、技術提供や営業面でのフォローを惜しまない。野球の大谷翔平さんのように、スポーツで秀でた人間は人格もズバ抜けている率が高い。ベルトランさんは、自社ワインの売上だけでなく、オクシタニーのワイン文化興隆のため奮闘してきたのだ。/
天下のムートンがオクシタニーに降臨
畑を見渡す位置に立つシャトーはロスシルド家の宿泊用。ファサードには酒の神・バッカスの顔が施されている。
オクシタニーの立役者として挙げるべきもう一人は、言わずと知れたフィリピーヌ・ド・ロスシルドさん。ボルドー5大シャトーのひとつ、シャトー・ムートン・ロスシルドのオーナーとして采配を振るった才女である。彼女は1998年にオクシタニーへ赴き、ドメーヌ・バロナークを立ち上げた。畑の土壌組成に沿い、ボルドー系品種やローヌ系品種を取り混ぜて“オクシタニーならではのムートン”スタイルを完成させたが、彼女亡き今も、スタッフは彼女の意向通りにアレンジを加え続けている。
赤ワインが優れているのは言わずもがな、特筆すべきはシャルドネを用いた白ワインのほうか。ブルゴーニュ寄りのスタイルながら、ブルゴーニュでは出し得ない深みと、果実味と、ムートンならではの上品さ。もし口にする機会があれば、「もしもムートン・ロスシルドが白ワインで本気を出したら」の正答例を舌で実感してほしい。